第81話 準備
ひとまず、ユキを組織へと帰して一息つく。
元々宿屋まで連れ帰る予定だったそうなので、疑われることもないだろう。今後は教えてもらったユキのいる組織のアジトの近くで、手紙を使ってやりとりすることとした。
「変装」を用いての潜入もこなすために、読み書きも教えられていたのは好都合だったな。
ユキを組織から切り離す段取りをつけるのが本筋の作戦より先だ。
ユキには組織の人間に居場所が伝わるGPSのような足輪の魔道具をつけられており、本人には外せず他の人間が外したり壊したりしても、組織の人間に伝わるそうだ。
特殊な空間であるダンジョンでは使えないのだが、森などのフィールドでは有効で、斥候の人間がつける場合もあるらしい。
この足輪があるのでバレないよう、アジトの近くにメモを隠してやりとりしていくことにした。
逆にいえば彼女を縛る枷はそれだけみたいだ。
いつでも切り捨てられるように組織との関係を示す痕跡をあまり残さないようにしていたのかもしれないな。今までは組織を裏切ってもその後、全うに生きていく算段がない少女だったからな。
裏切られる心配はないと甘く見ていたのだろう。
だが、今は俺がいる。後は決行日に一網打尽にして、そのときに足輪も外してしまおう。
その完全な一網打尽が一番難しいんだけどね。
まあ、多少の残党なら外しておけば追跡も難しいし、なんなら返り討ちだ。
後は決行日のタイミングだが、数日様子を見ていると、ユキから連絡が入った。
なんでも、俺がヴァイアージ家の売人と組織に伝えると、そのまま今度はヴァイアージ家を探るように指令を受けたのだそうだ。
ルフォイの件が効いているな。
森への大規模な遠征ともなれば、大きな商売のチャンスだが、不用意に近づいて強権の餌食にはなりたくはない。
まずは内情を探らせようということか。
これは好都合だ、組織は暫く泳がせることにした。組織の多少のバックアップがあればユキも潜入しやすいだろう。
後でその潜入の件をすべて組織に罪を被ってもらってヴァイアージ家に捕まってもらうとするか。
別に濡衣ってわけじゃないしな。
後でハメるのなら報告は適当でいいので、危険を冒しすぎないようにだけ注意はしておいた。
ヴァイアージ家はやはり危険だ。
そうして暫くはユキに我慢してもらい、情報を収集しながら俺の方も作戦に必要な準備をはじめていた。
今日やってきたのは、貴族様御用達の王都の一等地にある仕立て屋だ。
通りに二店舗が向かいあっていて、一方が貴族様専用で、向かいが豪商や高ランク冒険者などの貴族ではない金持ちが御用達ブランドに釣られて購入していく、一応一般人向けの店となっている。
カ〜、嫌だねこういうの。
成金の購買意欲を煽る作りと、貴族の特権意識を守るヤラシイ手だが、商売としては上手くやっているんだろう。しかし、まあ今回は俺も客だ。
「変装」のジョブスキルは手に入れたが、それでは衣装は用意できないからな。今後必要そうな衣装を用意しておかねばならない。
「変装」を使い、少し若いイケメン紳士に化けて、一般人でも入れる店舗へと入っていく。
店主は日や時間帯によって、どちらにいるのかはマチマチだが、今はこちらにいるのは先に確認済みだ。
店員が接客してくるが、予算を多めに伝えると奥から店主がやってくる。
「まあまあ、これは素敵なご新規のお客様ですね。
はじめまして。
と、派手な格好をした女店主が挨拶をしてきた。
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