第64話 ヴァイアージ家
その日の夜、体を横にして休ませながら先ほど聞いた話を反芻する。
貴族たちへの出入りをイチイチ自慢され、余計な話も多かったので「書記」らしく必要なことだけ情報としてまとめておこう。
奇しくも、無礼討ちで一番気をつけろという話で出てきたのは、ララの嫁ぎ先の公爵家、ヴァイアージ家だった。
情報を聞けるのはありがたいが、それだけ物騒で横暴が許されるほどの力を持っていることの証でもあるので、いいのか悪いのか。
と、いっても大した情報もなかったのでやはり悪いニュースなのだろう。
ヴァイアージ家は王国の『軍事』を代々司る大家で、近年はさらに力をつけているらしい。
国からの軍事予算があるため、商売っ気のある家系ではなく、貴族選民の強い武人の家系でルフォイも恐れ、直接交渉のテーブルにはつきたくないとか。
対して、ララの地元の伯爵領は王都から北西に位置する穀倉地帯で、王国の食料庫とも言われる重要拠点だ。こことヴァイアージ家が結びつくのは重要な意味を持つ。
軍が独自に兵站を用意できるとなると、国の内外に及ぼす影響力は計り知れなくなる。
今までは対抗勢力もあって均衡は保たれていたのが、近年はその均衡も崩れ、ララの家も苦渋でララを差し出す流れになったのだろうか。
憲兵を指揮下に置いているのは厄介だな。最悪の場合、強行策も考えておかなければいけないが、その難易度が跳ね上がる。
その上、商売っ気があればそこを突いて近づくことも可能だが、国の軍事を預かる家では信用のない人間が懐に入れる余地は薄いだろう。
まあ王都に着く前に憶測を重ねるのも良くない。
最低限の情報は手に入れたし、後は着いてからか。
幸い、マイヤーからの情報では社交場での婚約発表には数ヶ月準備があるだろうと聞いているので、それまでに王都でどこか牙城を崩せるポイントを見つけるしかない。
今はしっかりと、できることを増やしていこうとそのまま眠りについた。
その後の旅路もトラブルは何も起きず、一日が過ぎ、遂に翌日目指していた王都が見えてきた。
実際問題、行商のたびに盗賊や強い魔物がたまたま襲ってくるとか出来すぎなことが起こるべくもない。
が、トラブルはなくとも、ここ数日で見えてきたこともある。
セルゲイをリーダーとするこの長年のパーティーも一枚岩ではなく、所々不満をためているようだった。
さらに雇用主のルフォイとも付き合いが長すぎるのも厄介なのか、お互い雑な応対が見え、すべてが順調というわけではなさそうだ。
お互いズブズブの関係だから簡単に切られることはないとわかっているのが悪い意味で緊張をなくして、いい関係を作れなくなる場合もある。
互いの弱みを握ってる者同士だ、関係を断つとなると根本からバッサリいかねば自身にも被害が出る。
コイツラが俺がいなくなったギルドにまだちょっかいを出すようなら、そのあたりから切り崩すことも考えておこう。
ともあれ、嫌な奴らとの旅路も終わりだ。が、王都はブライアンに連れられて一度来たことがあるだけで、すぐに動き回るのは難しい。
まずはマイヤーの好意に甘え、マイヤーの実家の子爵家の別邸に赴くとするか。
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