4章魔境「パンドラの森」編

第101話 キャンプ

 俺達が王都を文字通り飛び出してから8日ほど経過していた。明日は予定通りならエレイシアとの合流の日だ。

 その間、何をしていたかというと王都の北東方向にあるDランクダンジョンの中で生活していた。


 目的は通常レベルが1で戦闘経験のないララのレベル上げと、パーティーとしての戦い方の訓練だ。

 俺自身パーティーとしての経験は0だ、そのあたりはメイスとラディッツオから学んでいった。

 俺がパーティー初心者だというと流石のラディッツオも驚いていたな。


 このあたりは滅多にはないとはいえ「パンドラの森」での縄張り争いに負けたAランクの魔物がうろつく場合があるため、ダンジョンの中の方が安全だという辺鄙な所だ。

 てか負けてAランクかよ、Aランクといえば有名所でいうと本物のドラゴンなんかもいると聞くぞ、どんな魔境だよ。


 このダンジョンはメイスの生まれ故郷である「リードライト」とかつて呼ばれたその街の管轄範囲だったため、今はギルドでも管理していない。

 逃避行中の俺たちには都合がいいのだ。

 夜もSランククラスのラディッツオ、メイスと俺が交代で見張りをすればDランクダンジョンならばむしろ外より快適に過ごしていた。

 

 ララも慣れない街の外での生活でも皆の足を引っ張らないようにけなげに頑張っていた。

 その姿に当初はメンバーに入れるのを不服そうだったラディッツオもどうやら長い目でみてくれるらしい。粗野なだけの男に見えるが実際はそうではないよとメイスがこっそりと教えてくれた。


 だが問題はないわけではない、その日の夜ユキが文句を言い出した。


「何よっ、臨時休暇とボーナスはどこいったのよ!すぐさまダンジョン潜って戦闘なんて聞いてなかったわよっ。」


 と駄々をこねる。まあそれは俺が急場しのぎで言った発言だからな、責任持って宥めなくては。


「いいか、ユキ。俺の故郷では『社員旅行』と呼ばれる休暇の過ごし方があってな、皆でキャンプをしてテントを張り肉を焼いて食べ親睦を深めるんだ。 

 今の俺達にはうってつけだろ?」


 ―社員旅行、忌まわしき過去の悪習。前世でも入社したての頃はまだそんな行事があり若い俺も幹事をやらされ苦労したものだ。

 おまけに費用は給与天引きでそのうえ休暇扱い、う〜んブラックの香り。


 と、まあ何とかユキを誤魔化そうとするが当然聞き入れて貰えない。


「タナカさんは私のこと世間知らずの馬鹿娘だとでも思ってるの?そんなんじゃ誤魔化されないわ、何よりお給金の話はどうなるのよっ。王都の外に出たならお金貰っても仕方ないじゃない。」


 痛い所をついてくるユキ。だがこちらも準備には余念がない「書記」だからな、アイテムボックスからある物を渡す。


「現物支給で申し訳ないが王都一の仕立て屋で拵えてもらった洋服と他にもアクセサリーだ。

 テントで着替えて見せてくれ、ララ、手伝ってあげてくれるか?」


 王都を経つ前に手に入れた物を小出しにする小賢しい作戦に出た。

 だが割と気に入ってもらえたようで2人で仲良くテントに入っていく。2人がすぐに仲良くなってくれたのも色々と助かった。

 ララは妹ができたように可愛がり、ユキもまた何だかんだで愛情に飢えていたんだろう、ララともメイスとも良好な関係になりつつあった。


 口では色々と文句を言っているがこのキャンプもどきも実際はまんざらではなさそうだった。

 今までは「変装」で自分を偽っているとき以外はあのスラムの奥の明かりのない部屋で過ごしていたという。だから「夜目」なんてスキルを持っていたんだろう。


「ジャーンッ、ねぇどうかしら?可愛いでしょ。

 場所は良くないけどタナカさんにしてはセンスあるから許してあげるわ。その、、ありがとね。」


 テントから出てきたユキは年相応の本人の姿のまま可愛らしくスカートをひらつかせその場で回って笑顔を見せた。


「ああ、よく似合っているよユキ。」


 このセリフは俺ではない、メイスだ。先回りされてしまった。

 メイスも長い間、軍を動かせる立場になるため奔走していて独り身だったのもあり、何だか孫を見るような目でユキを見ている。

 実際はそこまで年が離れてるわけでもないけど。

 ララも自分のことのように喜んでいた、こういう所が敵を作らないララの良い所なんだろう。


 こうして最低限のレベル上げとその間ララに「剛体」のスキルブックを用意して耐久による安全を高めておいたのでパーティーが揃えば次のステップに進めるだろう。


 見張りのラディッツオをおいてダンジョンの中だというのにはしゃぐパーティーメンバー。

 明日にはエレイシアが加入するがどうなっていくのやら。冷静になるとこのパーティー男女間の年齢差エグいよな。


 職場の人間関係に頭を悩ませるのは社畜も冒険者も変わらないらしい。




―――――――――――――――――――――――――――――――――


新章開幕です。


 今はまだ実力不足の新しいパーティメンバーなので序盤はゆっくり目にキャラの掘り下げができればと思っていますがクライマックスは王都編以上に盛り上げるつもりで頑張っていきますのでどうか長い目で見てやって下さい(_ _;)

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