第100話 エピローグ
アイテムボックス内で意識を離し、どれくらいの時間が経っただろうか。
合流が夜明け前予定なのでそこまでの時間は経っていない筈だが、心身の疲労から一時意識を離しただけで、もう時間感覚がわからなくなっていた。
ポンコツだなんてとんでもない、このまどろみの中、こちらのタイミングで呼び出され瞬時にジョブスキルを発動させたのは並の精神力じゃない。
一瞬でも遅れていたなら俺は串刺しだったろう。
合流したらエレイシアも労ってあげねばならないな、だなんて考えていたところでようやく外へと出られるように体が動き出す。
同時に「時計」のジョブスキルを使用して、時間を確認しながら外へと出る。
ちょうど夜明け前、場所は城壁の北東の四隅だ。
街の城壁の作りは正方形で四辺のそれぞれ中心に門がある、シンプルな作り。
今頃、門は伝令が伝わり固められているだろう。
逆に四隅は街の中心からも離れていて、重要部でもないので警戒は薄い。
なにせ城壁は高さ150mもある、王都の大結界もあるので、飛行する魔物が近寄ることもない。
まして王都から北東方向には今はもう街がないのだ。この辺りは手入れもされていない、雑林となっていた。
外に出るとメイスと目が合う、ラディッツオはいない。
「今は用がないし、奴は目立つだけだからな。仕舞っておこう」
て、手厳しい。まあ、実際その通りだけど。
この先の逃走手段も簡単。メイスの飛行魔法頼みだ。便利すぎるぜ、タケ○プター。
「魔法使い」のジョブレベルが7まで到達しているような一流の魔法使いで、国が把握していない人間などいないので、こんな抜け道への対策がされていない。
スキルブックも、かつて四代前の王様の頃に一つ見つかり、有事の際の脱出に使える飛行魔法のスキルブックを王に献上したところ、その者には領地が与えられたなんて話があり、個人で持っておくことなんて不敬罪にもなりかねないのでありえないのだ。
このスキルブックを大層気に入った王様によって、例の禅譲の発言に繋がるらしい。
さて、合流地点の先には憲兵に変装したユキがいる。肩に目印の赤い布地があるので間違いない。
ニ人に接点がないので俺だけは合流前に外に出されたわけだ。
「お疲れ様、ユキ。それじゃあ茂みの方でララを出してもらえるか」
こちらも目印を出して話しかける。
「お疲れ様ってそれだけ? 数時間もわざと警備兵を撒かずに引き連れてから、一気に撒いてここにくるの超大変だったんですけどっ」
憲兵姿のまま頬を膨らませてそんなこといっても可愛くねぇ…… などと感想は漏らさない。
部下の愚痴を上手く宥めるのも上司の仕事だ。
かつての
駄目な上司の駄目な所をよく見て学んでしまっているが、そうならないように努めなければ。
「ああ、今回の作戦はユキあってのものだ。本当にありがとう。後でできる限りのことはするから、今はちょっと待ってくれ。
詰めが甘いのはプロの仕事じゃないだろう?」
と納得させる。うん、結局あまり変わらないな。
「しょうがないなー、じゃあ最後くらいビシッとカッコいいとこ見せてよねっ。感動のご対面なんだからロマンチックに決めなさいよっ」
と謎の念を押される。
この娘は俺に何を求めてるの? 授業参観にダサい格好で来ないでパパ! みたいなノリなんだろうか?
このままララを出さずに、ユキごとメイスのアイテムボックスに仕舞って飛び立つのが一番いいんだが、ララを入れたままのユキがアイテムボックスに入るとどうなるか、前例がなくて怖いので一度出すことにした。
異次元空間✕異次元空間ってカオスすぎて何が起こるかわからないよね。
それに有耶無耶に連れ出してしまったが、まだララ自身の意思確認をしていない。
ここから先は危険な街の外なのだ。逃避行となる前にしっかりと話はつけておかないとな。
「さあ、お姫様気分はどうでしたかララお姉ちゃん。 私のときよりロマンチックに助け出されててちょっと嫉妬しちゃうけど、タナカさんをイジれて楽しかったから、良しとします。
さあ、タナカさんの胸に飛ん込んできなさい!」
ボックスからララを出し背中を押すユキ。
いや、テンションおかしいでしょ。
ユキにはもう、出会ったときの暗い影はなくなっていた。これが本来の彼女なのだろう。
俺だってこの世界にくる直前など、感情を押し殺しすぎて最後は制御できなくなっていた。
少しは変われただろうか?
テンションがおかしいのがもう一人。ララも状況に飲まれたまま、勢いよく俺に抱きついてきた。
いやいや、変装はまだ解いてないけど、こっちはおじさんだからね、あまり勘違いはさせないでほしい。
本来止め役になるエレイシアがこの場にはいない。助け舟を求めてメイスを見るが、目を閉じてこの場が終わるまで静観の構えだ。
いや、なに私は気をつかえる
「ララ、落ち着いてくれ、これから王都の外に出る。その前に君に話があるんだ」
ドレスでは林の中でも目立つので、着ていた黒基調のスーツをララに羽織らせ、肩を掴んで距離を取る。
「キャー、プロポーズよっ、年甲斐もなく。でも頑張れタナカさんっ!」
野次を飛ばすユキ。うん、ちょっと過去に同情しすぎて甘くなりすぎていたようだな。
後で教育的指導が必要だ。
「はいっ、覚悟はできています」
上目遣いの、未だ状況に酔っていそうな瞳で返事をするララ。何のかは知らないが、取り敢えず覚悟があるのはいいことだ。
「いいかい、このまま王都にはいられない。一度街の外に出るけど、いつまでもそんな生活を続けるわけにもいかないだろう。
それに君の家の領地の問題もある」
そう俺が告げると、急に酔いが冷めたのか、暗い顔になるララ。
「そう、ですよね。助けてもらって舞い上がっちゃいましたけど。私、戻らないと。
ありがとうございました、おかげで一生の思い出ができました。
これで心置きなく嫁ぐことができ―って、どうしてここにメイスさんが?」
少し冷静になったのもあり、メイスの存在に気づいたララに続けて説明する。
「彼には俺のパーティーの仲間になってもらったんだ。他にも君の後ろのユキと、今はいないけどラディッツオとエレイシアにも、話はついている。
これで五人だ。このパーティーでまずは『パンドラの森』を討伐する」
俺の宣言に驚くララに、さらなる追い打ちをかける。
「その後『地底古代文明ダンジョン』を完全攻略して王都へ凱旋する予定だ。王様の宣言通り禅譲となれば、この程度のヴァイアージ家との確執なんて吹けば飛ぶ埃みたいなもんさ」
道程は確かに困難だ。だが、このニつを成し遂げれば、全員の問題、そして目的の完遂となる。
「じゃあ、本題だララ。君には今後ニつの選択肢がある。一度街の外に出た後、君が望めばなるべく安全を確保して俺達の成果を待つというものだ。
そしてもう一つは俺達のパーティーに入らないかというものだ」
ダンジョンに一度に入れるパーティー人数は六人まで、最後の一人の勧誘を始める。
「エレイシアから聞いているよ、君は『僧侶』のジョブを持っていて、子供の頃は冒険者に憧れてたって。それで『剣士』を持っていたエレイシアは侍女だけでなく、騎士を目指していつか、ニ人で冒険に出るのが夢だったんだろ?」
伯爵家の娘で政略結婚の道具となる運命だったので実戦は許されず、経験はない。だが、それはこれから補える、俺のスキルがあれば。
ララは言葉が出ないようだが、話は聞いてくれている、続けよう。
「戦いが怖いのなら何処かに安全な拠点は作る予定なので、そこで待っているのもいいだろう。けどどうだ、自分の育った街を自らの手で守りたくはないか?『不可能のダンジョン』を攻略して名誉と自由を勝ち取りたくはないか?
俺と一緒に冒険に出ないか、ララ」
後は彼女の選択次第だ、時間はかけたくはないが待とうと言葉を切ると、
「どうしてタナカさんがそのセリフ知ってるんですか?そんなこと言われたら答えは決まってるじゃないですかっ。私を冒険に連れ出してタナカさんっ」
と、一部よくわからないが即答を貰い、最後のパーティ勧誘は上手くいったようだ。
「ふむ、北方の一部で伝わる絵本の冒険譚のセリフだな。いや、タナカ君もやるときはやるね。
ブライアンさんのような口説きの手際だな」
と、カカシになっていたメイスが突如、話の補足をする。絵本についてはさておき、ブライアンを例に出すのはヤメテくれ。断固訂正を求めるっ!!
後ろを振り向いた隙にまたしてもララに抱きつかれてしまった。まあ、よくわからんが取り敢えずこの場はもういいだろう。
「よし、話がまとまった所で、お尋ね者には長居は不要だ。さあ逃げますよっ」
この状況から逃げ出すために王都から逃げよう。
―さあここから先は前人未到な冒険が待っている!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
最後だけ長くなってしまいましたがキリのいい100話でもって「王都救出絵巻」これにて終局です。(_ _;)
ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。ここから先もまだまだお話は続くので更新次第ですが続きをお楽しみください。
メイスさん本気の復讐劇、ラディッツオとミスリルゴーレムとの再戦など他にも話を盛り上げていけたらと思っております。
「まあ面白かったよ」という方は是非★★★をつけて作品の宣伝にご協力ください(_ _;)
【お知らせ】
ギフトをいただきサポーターになってくださった方がいるので何かできないかということでサポーター限定ノートにて2章でもやった3章での登場人物まとめならびこぼれ話と主要メンバーのステータスをそれぞれ随時更新していこうかと思っています。
3章終了時点でのとんでもない量になったタナカさんのスキルも週末に投稿予定ですが気になる方はよければサポーターも検討してみてください(_ _;)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます