第99話 脱出

「ん? 何だそれじゃあ、あの嬢ちゃんを攫ったのはヴァイアージ家への恨みとか、俺らをパーティーに入れるためとかじゃなくて、単に知り合いで助けたかったからってことか。

 ふ〜ん、それはどうでもいいが、それならこっちの俺に一撃いれたアンタは、嬢ちゃんの後ろにいた女剣士かっ! 気づけば何となくわかるな、確かに」


 いや、どうでもよくないが。

 

 メイスが俺の正体に気づき、状況が飲み込めないラディッツオにサインの片手間大雑把ながら成り行きを説明した所、こんな感想が出てきた。


 何が『意味わかっていってやがんのか?』だよ、わかってないのはあなたですよっ。

 つか、俺らを只の賊だと思ったままパーティー入り承諾したのか。何だか扱いやすすぎて、逆に扱いづらい猛獣を手に入れてしまったようだ。


 ちなみにサインの時にメイスに


『冒険者パーティーを組むのなら敬語や敬称は不要だ。メイスでいい、よろしく頼むタナカ』


 と言われたので結局またメイス呼びに戻すことになってしまった。冒険者というのはそういうものらしい、社畜にはよくわからん話だ。


 結局、負け惜しみだからか知らないが、メイスが何処で俺に気づいたかは面白がって教えてはくれなかった。

 普段の余暇がない分、こういう意外な所でお茶目なんだよなこの人。ブライアンと一緒のときはひたすらツッコミ要員になるんだけど。


 勝手に推測すれば、lvこそ違えど合気道は昔、ギルドで俺が使っていたのは数度目撃されていたこと。

 交渉に入ってからの口調、そして強制証文の筆跡が止めか。

 広場で二度目にあったときにも何か違和感を与えていた可能性もありそうか。


 口振りからすると俺の異様に高かった「書記」のジョブレベルと今の証文の魔力なども加味して、新しいスキルによって急激な戦闘力を手にしたことも推測されていそうだ。

 ユーリーといい、俺より頭のいい人の相手をするのは怖いもんだわ。

 

 さて、ここで色々考えている場合でもないな、何せ敵地のど真ん中だし。


 まずはサインが済んだラディッツオを解放したらそのままエレイシアにはひとまず屋敷へと戻ってもらう。

 このままいなくなれば犯人側にエレイシアが協力していたと疑われて、ララの家の立場も悪くなるからな。実際、協力してるんだけど。


 シナリオとしては主が攫われ、控室から出て主の救出に向かったが追いつけず、屋敷へと戻りヴァイアージ家に説明を求めてクレームを入れるという演技だが、果たして大丈夫だろうか。

 

 演技とか苦手そうだからなー、作戦会議のときにいっそ俺がエレイシアに変装してその役やろうか?

と提案したら、


「バっ、馬鹿にするなっ、貴族達への対応なら慣れている。何より、私のことは私がやれば一番ボロが出ないだろうがっ!」


 と怒られてしまった。まあ騒ぎで混乱しているし、落ち度が公爵家にある以上、エレイシアに嫌疑など下手にかけられないだろう。

 あれだけ派手にやったのも手引き云々ではなく、完全に公爵家の落ち度と、他の招待客に印象づける狙いもあったのだ。


「後で合流しよう、エレイシア。ララが待ってるからな、しくじるなよっ」

 

「変なプレッシャーをかけるなっ、前々から言いたかったが、タナカさんは私のことをポンコツ扱いしすぎだっ、合流したときは覚えていろよ」


 と捨て台詞を吐いて屋敷へと向かうエレイシア。

 出会ってまだ1ヶ月ちょいだが打ち解けてきたなと、好意的に受け取っておこう。


 残った俺らはというと、まずはアイテムボックスから作り置きしていた商人の「アイテムボックス」のスキルブックを取り出して、メイスに渡す。

 どうやってこの場から脱出するか、それはもうメイスに運んでもらうのが一番安全だ。

 飛行魔法もあるしね。


 スキルブックを渡すと、流石に驚きつつも


「どうやらスキルブックを用意できるというのは本当のようだね。

 私に委ねるのは些か信頼しすぎな気もするが、それも先程の証文のスキルということか。いやはや、努力というものはどのように開花するかわからないものなんだな、また一つ勉強になったよ」


 あの社畜生活を努力と称されるのは、また凄い複雑な気持ちになるな。ただ、この力で誰かを救えるっていうのは悪い気分でもない自分もいる。


 準備も終わり、少し嫌がりつつも大人しくアイテムボックス内に入っていくラディッツオ。俺も合流地点を伝えると後は任せましたよっと入っていく。


 ここ二ヶ月、何だかんだで忙しかったからな、ようやく人任せにできる。…… 本当に二ヶ月か?


 その前の試験も半月でフィールド一つとニつのダンジョンを攻略して、残り半月で俺がいなくても回るよう引き継ぎに追われていた。

 さらにその前など説明不要の社畜生活だ。


 実際問題、この後も課題は残ってるんだよなー。

 ララ達にずっと街の外で生活させるつもりなんてないし、メイスの本懐を手伝えるのは正直嬉しくもあるけど、大仕事なのは間違いない。



 うん、休めるときに休んでおこう、

 俺は久方ぶりに思考を放棄することにした。



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 いかがだったでしょうか?

仲間も増え激闘もあった3章も残りはエピローグのみとなります。 

全体を通して面白かったよ、いうかたは是非★★★レビューをつけていただけると次章執筆の励みになります。


 また7月5日現在作品フォロー様が5千人到達しました!!執筆からちょうど2ヶ月でここまでこれるとは思っておらず感激です。

 まだの方もいらしたら是非お願いします(_ _;)


 



 

 

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