第98話 友人
「話か…… 、いいだろう。こんなことをしでかして、この後どうするつもりか興味はある。
このあたりに兵はもういないから続けたまえ。ラディッツオが戦うと、皆巻き込まれるのを怖れて、近づかんからな」
「なに、俺のせいにしてんだよ。アンタの殲滅魔法のがよっぽど巻き込まれコエーっつーの」
俺の提案にメイスとラディッツオが反応を示す。
―殲滅魔法、魔法使いのジョブレベル8で取得する、広範囲を焼き尽くすというそれを使われていては、俺はひとたまりもなかっただろう。
まあ、ヴァイアージ家の私有地内で使うことはできないと踏んでここで勝負したんだけどな。
そういう意味でも、完全な実力で勝ったのではなく、状況に合わせて作戦を練ることができたのが大きいのだ。
「それで、我々を捕らえた理由は何だい?
言っておくが、私兵はともかく憲兵には人質にもならんぞ。所詮は戦闘用の駒だからな。
君たちはヴァイアージ家に泥を塗る行為をしたんだ。あらゆる手段をもって、君達を捕らえることを優先するぞ、生死問わずにね」
「ええ、そうでしょうね。
このまま街中へ逃げても王都はおろか、他の街でも新参者への取り調べは厳重になり、ずっと怯えて暮らすことになるでしょう。
仕方ないので、街の外へ逃げようと思います。そうだなあ、『パンドラの森』なんてどうでしょうか?
お二人がヴァイアージ家から抜けてもらえれば、あの森に追ってくることはできなくなると思うのですが。私は元々その先のダンジョンに行ってみたいと思っていたのでちょうどいいですね」
俺が仰々しく、ジェスチャーを交えてプレゼンすると
「クッ、クハハハァッ! おいおい、意味をわかって言ってやがんのか?
いや、いい。そういうバカなことをいう奴を探してたんだ。
俺は乗るぜ、この家には大して義理はないしな。
あのクソゴーレムを倒せるなら名声も何もいらん、お尋ね者でも何でも構わんさ。メイスの旦那はどうする?」
こちらの意図を理解したラディッツオが、ひとしきり笑った後で快諾の意思を見せた。
そう、何故二人を倒すことに拘ったのか、それは今後二人の力が必要と考えたからだ。そして、それは二人の目的とも合致しているはず。
「私、私は……」
珍しく言葉に詰まるメイスさん。ララ奪還に失敗したとあっては遠征の件も凍結になるだろう。
しかし、だからといってダンジョンならともかく森の討伐は軍隊なくして為せる行為でもまずない。
すべてを投げ出して俺についてきても、目的は果たせないと考えているのだろう。
「悩んでいるメイスさんに一つ、お教えしましょう。私が複数のジョブスキルを使用したのはご察しの通り、スキルブックの力によるものです。
ではメイスさん。あなたの切り札である殲滅魔法、これをパーティーメンバー全員が撃てるようになるとしたらどうです?」
「「「なッッ!!」」」
この言葉にはメイスさんだけでなく、ラディッツオにエレイシアまで驚愕を隠さず、反応する。
いやエレイシアさん、君にはもうスキルブック作成の力見せてるやん。剣から目を離さないでよ。その人、暴れたら怖いんだから。
「し、信じられんっ。パーティー分のスキルブックを持っているだとっ、そんな量が持ち帰られたなど過去にも聞いたことがないっ。しかし、まさか……」
驚愕しつつも、深く思考をはじめるメイスさん。
「そんなことが可能なら確かに一個師団に匹敵する戦力となるだろう。
現状私は捕まり、派兵も絶望的となるとその言葉に賭けて見たくなるな、少しでも可能性があるのなら諦めるのはその後でいいか」
俺に敗れ、すべて諦めざるをえない状況と思った矢先、逆にその相手から一縷の望みを掲示され、戸惑いながらも藁にも縋る思いで手を取ってくれた。
よし、冷静になられる前にちゃちゃっと、例のやつを用意しますか。
ラディッツオはそのままに、武器がないメイスさんを目の前に解放して、アイテムボックスからランタンと一枚の紙と万年筆を取り出す。
「では、パーティー加入を正式に決めるサインをもらいましょう。
先程まで敵対して派手にやり合いましたからね。
紙切れだけでもないと不安で解放できませんよ」
この状況でサインを求めるコチラに呆気に取られるメイスさんとラディッツオだが、敗者なのもあり素直に従うらしい。
とっ、ここでメイスさんから驚きの言葉が出た。
「私はいいが、君もサインするんだろ?
いいのかい名前を書いて、タナカ君」
…… 、驚きすぎて言葉が出ない。「変装」スキルで姿形も声も変え、さらには当時の俺にはない戦闘力も見せたのに何処で?
「ふむ、負け惜しみで半信半疑のまま、カマかけをしたが、やっぱりそうか。これはスキルブックの件も信憑性が増したな」
なんて冷静なのか間の抜けたなのかわからないメイスさんの言葉。この人は割と自己完結する人だったな、そういえば。
「おい、何だ? この兄ちゃんと知り合いだったのか、メイスの旦那」
いまだ剣を突きつけられたまま、平然とメイスさんに質問をするラディッツオ、絵面がシュールだ。
「その兄ちゃんというのはやめたまえ。同年代、いや確か同い年だったかな」
こちらもコチラで冷静に会話をしている。俺が一番混乱しているまである。
「どういうことだ? 私も聞いていないぞっ」
エレイシアまで乗っかってきた。
だからサインをもらうまでは、ラディッツオから目を離さないでね。
「友人だよ。偏屈な私の、数少ない誇れる友人だ」
こんな風に言われたら負け惜しみどころか完全にこちらの負けですわ。
ここの所ずっと張りっぱなしだった肩がようやっと、軽くなった気がした。
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