第83話 代行
仕立て屋での注文を終え、他にも今のうちに揃えるものは揃えておこう。
ユキを組織と完全に切り離したのなら街での情報収集もあるが、できるだけ俺はダンジョンに行き、レベルも上げておきたい。
その後の事も考え、物資が豊富な王都で商人のアイテムボックスに詰められるだけ詰めておく。
ユキの私服になりそうなものなんかも用意しておいた。
夜になると酒場に出て、ユキからの情報提供を利用しながら「変装」を用いて、ある『噂』を流していく。
今回はヴァイアージ家にすぐに動かれてバッティングしてもことなので、アングラ中心に動いてユキの組織に届くようにだ。
すべては組織を一網打尽に捕縛して憲兵に突きだすためだ。ユキが持っている組織の情報を、さも組織の人間が外に流出させているかのように、それとなく動いてみた。
スラム近くの怪しげな酒場などに出入りしたのでゴロツキにも絡まれたが、街中で戦闘系のジョブスキルを使うような輩は当然いないので通常戦闘スキルを潤沢に上げている俺の敵ではなかった。
しばらくすると行動が実を結び、ユキが外で活動している間に組織の幹部連中が一堂に会する動きを察知できた。
「暗殺者」を探す間に、ギルド本部にて「斥候」のジョブ持ちに仕事の依頼などを通じてジョブスキルの作成条件をクリアしておいたのも功を奏した。
強い戦闘系のジョブスキルの作成条件はかつて「英雄譚作成」を通じて手に入れていたんだが、斥候のジョブ持ちはあまり自己顕示欲がない人間ばかりで、話を聞けなかったので仕事を通じて得るしかなかったのだ。
この世界では割と性格とジョブには関連性があるように思える。俺が戦闘職じゃないのも頷けるな。
ユキから得た幹部達の外見や行動から判別し、暗殺者の「変装」と斥候の「気配遮断」を使って尾行し、夜に幹部招集があるその日の昼に俺は組織のアジトへと足を踏み入れた。
こちらは俺一人なので、逃げ出す奴が出ても後が面倒だ。一人ずつ捕縛していくことにした。
ユキとエレイシアに協力してもらうことも考えたが、ユキは見張りがついていて魔道具もあるので相手に勘付かれないことを優先し、エレイシアも性格的に隠密行動は合わないだろうと、今回は単独行動に出た。
作戦としてはもぬけの殻となっているアジトに斥候の「罠感知」を使って潜入し、残っている見張りを捕縛して「変装」することで夜の会議にくる幹部達を一人ずつ待ち構え、捕縛するというもの。
集まっているところに襲撃するよりは逃げられにくいだろうからな。
アジトは昼ということもあり、構成員は五人しか残っていなかったので簡単に占拠できた。
しかし、俺もいつの間にか大胆な行動に慣れてきてな。王都に出てきてエレイシアやユキを相手に完封勝利したのが自信になっているのかもしれない。
「くっ、何処の組織の人間だ! こんなことをしてタダで済むと思うなよ!!」
捕まった三下の一人が、三下らしいセリフを吐いてくれる。
「どうもわたくし、退職代行サービスの者です」
そんな冗談が出るくらいには余裕がある。これから武闘派の公爵家を相手にしようというんだ。
こんな奴らに躓いている場合ではない。
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