第76話 罠

 エレイシアと協力関係になってから、六日が過ぎていた。そう簡単には引けず、無為に近い時間を過ごしている。


 ここは王都の歓楽街の一角、昼は敢えて痕跡を残してスキルブックを捌き、その資金で装備をグレードアップさせてから、こうして酒場でグラスを傾けている。


 ルフォイの処刑から半月ほど経って、街は少し落ち着きを取り戻してきているようだ。

 たいして酒が強くない俺はチビチビと飲んでいるフリをしながら、周りの話に聞き耳を立てていた。


 だが、昨夜スラムへと繋がる裏路地に、表に出せない品物専門の闇質屋があるという情報以外は、ろくに必要な情報は入ってきていなかった。


 元々こういうの得意なわけじゃないしなー 。輪に入っていくような態度も控えていた。あくまでこちらの素性を探りに来るものを罠にかける作戦なのだがら。

 成果が出ず焦る気持ちも出るが、酒をあおり心を落ち着かせる。


 そう簡単にいくとは最初から思ってはいない。

 エレイシアには十日ほど猶予をもらい、後に細かい作戦を詰めていくことで納得してもらった。


 その後のエレイシアとの話し合いを思い出す。

 結局、ララにはぬか喜びさせてはいけないと何も伝えないことにした。

 記念の魔石はまた俺の懐に戻ってきている、機を見て直接返してみせるさ。


 エレイシアにも色々と動いてほしいが、基本的にはララの近くにいてもらうことが一番だ。

 婚約発表のパーティーの情報が入れば伝えてもらうことになっている。


 現状を整理してみるも、やはりあの「スキル」がなければ作戦には届かない。

 もうそのスキル頼みである程度派手に動いてしまったんだ。後戻りはできないだろう。


 他にも昼間にギルド本部や、この歓楽街でも例えば「斥候」のジョブスキルの知識など、必要そうなものは揃えていたが、肝心のジョブについてはまだ手掛かりを見つけられずにいた。


 何故そのお目当てのジョブだけは情報が出てこないのか、それには理由がある。

 それはそのジョブに目覚めた人間はそのことを隠して生きていくからだ。


 自身がそのジョブだと知られればアダマンタイトの城壁で守られた安全な街から追放されて、流浪の民へとされてしまう不遇のジョブ。

 為政者から恐れ忌み嫌われるそのジョブの名は……… 。


「お隣、よろしいですか?」


 一人思案していると、俺には全くもって不釣り合いな絶世の美女がカウンターの隣に腰掛けてくる。


 遂にきたか、この女性がお目当てのジョブかはわからないが、ただの逆ナンってことはないはずだ。


 今日の昼に例の闇質屋にスキルブックを流したのが、さっそく効果を出したのだろうか。

 実際はわからないが、美女はそんなことは、おくびにも出さずに、俺に蠱惑的な笑顔を見せる。


 それだけでクラッときてしまいそうだが、罠を張って罠にかかりましたじゃ情けなすぎるだろう。

 気をしっかり持って、相手の誘いに応じる。



 ―罠にかかるのは果たしてどちらか。


 

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