第118話 邪神の信徒

「お疲れ様、ユキ。長旅で疲れてるだろうからまずはゆっくりしてほしいが、その前に頼んでおいた報告書を渡してくれ。」


「はいはい、そっちが本命でしょ。まったく、こんな可愛い娘が帰ってきたのに仕事が優先だなんて嫌になっちゃうわ。

 まあ、取り敢えずお風呂入ってくるからご飯の用意よろしくね。」


 自分で可愛いとか言っちゃうんだね、、。それとあくまで娘扱いじゃなく部下扱いだから、とか思ってても話が拗れるので口にせず報告書を受け取る。

 ユキは読み書きができるし、口頭で報告を受けても余計な話ばかりになりそうなので簡潔に報告をまとめてもらい詳しいことはそこから質問する形にしておいた。


 ざっと目を通していく中、1つ文章のところでピタリと固まってしまった。それは想定を超える嫌な報告だったからだ。


「街への入門の遥か手前、ミスリルの魔法陣への憲兵の派遣あり。これは、、。」


 ―街を護る結界の綻び。まだ数年は問題ないと言われていたが何らかの異変、それも作為的なものが警戒されているということか。


 報告を読み進める。ユキも事の重大さに気づき、街の内部でそのあたりを調べてくれていたようだ。

 何事もなかったかのように減らず口の挨拶をしておいてしっかり仕事はするんだから、本当にカッコつけだが頼りになるな。

 ご飯もサービスしておこう。


 初めて会ったときのユキは「変装」の美人はともかく、本人はガリガリの女のコだったが今では育ち盛りなのかよく食べ、性格も相まって快活な少女へと生まれ変わっていた。

 そのうちララのようなスタイル抜群の美女になられては増々俺の立場というものが危うくなってくるな。


 まあ今はそれより報告書だ。ユキには「盗賊」のジョブスキル『解錠』を覚えさせておいたので密偵としての能力は向上しており、ララの街の憲兵の報告書を入手していた。

 それによるとやはり魔法陣への破壊工作の爪痕が発見されたそうだ。


 アダマンタイトほどではないししろ素人にミスリルの古代魔法陣の破壊など容易ではなく、ほとんど影響はないもののやはり今までの綻びも組織的な破壊工作によるものの可能性を考慮し、再調査されているそうだ。

 それに伴いこの街リードライトの破壊された魔法陣も調査にくるらしい。


 予定では2ヶ月後とのこと。この街にまだキマイラが住み着いていると思っているようで、完全に冬眠する冬に調査したいようだ。

 獅子の魔獣も冬眠するのだから前世感覚の常識はホント通用しないな、、。


 さてそれと破壊工作をした人間はまだ不明だがその容疑者リストも報告書には記されていた。

 婚約の怨みからのヴァイアージ家も一応乗っていたがまあその線は薄いだろう。流石にやりすぎで、この街まで陥落しては王都にすら危険に晒すことになるからな。


 俺から見ても一番の候補は報告書通りコイツらだ。


「かつて東方の国からこの王国へやってきた異教徒、邪神教。王国に害する物として迫害されたが東国との戦争を回避するため、処刑ではなく街から追放された者達の末裔。」


 ―森への遠征の前にこちらへ何か手を打つことを考えるか。



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