第78話 毒
「私の隣でよければ、美しいお嬢さん」
美女が隣に座り緊張するが、油断はしない。
まずは出方を伺おう。
「お世辞をどうも。食事に誘ってきた男性が仕事に戻ってしまって。
1人で飲むのが嫌で、話しやすそうな方だったのでつい。向こうから誘ってきたのに帰っちゃうなんて、ホント嫌になっちゃうわ」
それは災難だ、本当ならね。俺は職員時代は仕事がありそうだからとまず誘わなかったからな。
「それは嫌な思いをしましたね。それでは飲み直しといきましょう、乾杯」
グラスを合わせ、しばし談笑をする。素性を聞かれ、旅の冒険者と答えると驚かれた。
だから、そんなに似合わないの、俺?
「そうなのですか? 物腰柔らかい、紳士な方なのでてっきり、いい所にお勤めの人かと」
と、世辞を言ってくる。まあいい風に捉えておこう。いや、違うか。
今のは勤めという名の、スキルブックの入手先を探ってるのか。
美女に言い寄られて、自分を大きく見せたいと、つい繋がりのあるビックネームがあるなら口からポロッと溢れるものってことか。
まあ、残念ながらそんなものは俺にはないが。
さらにしばらく他愛もない話を続けると、埒が明かないと痺れを切らしたのか、酔ったていでボディタッチが増えてきた。
悪い気はしないが明らかな誘いだ。距離を取ろうと、お酒を飲もうとする動きで牽制する。
しかし、チビリとだけ酒で口を潤しただけで体に異変が起こった。
コッ、コイツ今のボディタッチは、酒に一服盛る死角を作るためのミスディレクションか!
体に異変といっても、症状は酔いが急激にまわったような幻覚作用で、すぐさま命に関わるような猛毒ではなさそうだ。
そんなことを冷静に考えられるのは当然、スキル「毒耐性」をlv4まで取得していたからだ。
しかし、lv4まで上げてここまで作用があるのはそんじゃそこらの自然毒物じゃないぞ、これは。
おそらくはジョブスキル「毒調合」によるもの。
つまり、当たりだ。
「アラ、どうされましたか? マスター、この方が酔いが回ったようなので連れて出ますね」
シレッと俺を連れ出そうとするお嬢さん、もとい「暗殺者」。といっても、今回は俺を殺すことが目的ではないだろう。
スキルブックをまとめて流すほどのバックを持つと考えるなら、まずはその背景を知るところからだ。
危険な商売ほど、危機管理意識と大きな商売チャンスは逃したくないものだからな。
この薬も恐らくは自白作用のあるものってところか。抵抗はできるが、ここは敢えて乗ってやる。
むしろ都合がいい展開だ。
最低でも「変装」スキルについて喋らせて作成条件はクリアするが、金次第では何でもやる非合法の存在となれば、上手くいけば取り込める可能性もある。
今回やってみてわかったが、俺はこういう諜報活動には向かない。
だが、今後そういった実践経験のある人間がいれば、救出作戦の成功率が一気に上がるだろう。
俺を肩にかけ、店を出る「暗殺者」。
舞台は店を出て、裏路地へと移る。
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