第79話 ヘッドハンティング

 俺を担ぎ、店を出る「暗殺者」。

 重そうなフリをしているが、持たれてる側からしたらハッキリとわかる。実際は楽に担いでいるな。


 暗殺者がパワー型ってことはないだろうから、それなりに通常レベルも上げているのだろう。

 介抱するフリをしながら裏路地へと連れていかれる。そこで、


「気分はどうかしら? 悪くはない筈よ。安心して、明日には全て忘れてるから。

 だから気兼ねなく、私の質問に答えてね。

 あなたが売り捌いたスキルブックの出処を教えて、雇い主は誰なのかしら?」


 と耳元で囁かれる。そこで相手の腕を掴みながら


「教えてもいいが交換条件といきませんか、『暗殺者』のお嬢さん」


 こちらの言葉に驚愕し、素早く逃げようとする暗殺者。大した反応速度だが、先に武術家に腕を取られていては無駄というもの。

 逃げようとする力を利用して関節投げを決め、そのまま腕を極めたまま、組み伏せる。


 いや、まあ王都での相手を殺せない対人戦闘を想定して、スキルブックで合気道lv5まで上げておいたのだが、それでイッパシの武術家気取りはインチキがすぎるな。


「クッ、何故私の毒が効かない! はじめから罠だったのか」

 

 身動きが取れない中、恨み言を言う暗殺者。


「いや、毒は効いていたよ。耐性で凌いで解毒魔法キアリーを自分にかけて解毒したけど、大したもんだよ」


 とネタバラシをする。担がれている間に僧侶のジョブスキルレベル2の「状態異常回復魔法」の一つ、キアリーですでに解毒は終わらせ、機を伺っていた。


「そう、僧侶には見えなかったわ。

 おまけに耐性持ちでこんな知らない体術まで使われたらお手上げよ。

 ………、殺すなら好きにして、正直こんな汚れ仕事でコキ使われるのも疲れてたのよ。やっと楽になれるわ」


 その声色は今までの魅力的な大人の女性から、年端もいかない少女のものになっていた。

 蠱惑的な魅力を放っていた瞳も、いつのまにかくすみ、死んだ魚のような目になっている。


 そうして勝手に話を進める暗殺者。

 しかし、一つ気になることがある。


「いや、交換条件って言ってるだろ。

 というか、仕事が嫌で死んでもいいやって気持ちは凄いわかるけど、その自棄は後悔するだけだからやめときな。経験者としての忠告だ」


「わかったようなことを口にしないで。

 私はこうして捕まり、殺されるまで汚れ仕事をこなすだけの道具として生かされてきたわ。

 他に選択肢などあるものか、『暗殺者』が街の中で暮らすにはこうするしかないのよ」


 ああ、まさかこんなところにもいたのか……… 。


 前世の頃のくだらない社是を全員での唱和、恐ろしいまでのノルマからの上司の怒号による洗脳が頭をよぎる。


 そうなんだよっ、やっているうちはそれしかない、俺がやるしかないってなっちゃうんだよな。

 でも、そうじゃない。そうじゃないんだ!


「勘違いするなよ、人生の先輩として一つ教えてやる。いいか、!! 事実、俺は辞めた」

 

 つい先日、勝ち取ったばかりの俺の人生の勲章である『退職』を自慢する。

 ふっ、どうだ羨ましいだろ。


 何の話をしているのかわからないような呆けた顔で、急に熱く語る俺を見る暗殺者。

 こいつがフリーの仕事請負人なら金で抱き込んで、「強制証文」によって協力者にしようかと思ったが、やめた。


 こいつはかつての俺と同じ、哀れな社畜なのだ。

 救ってやらねばならん。


「なあ、今の職場を辞めて俺の所で働かないか?

 年間休日、福利厚生、お給金。どれも今の待遇より上を約束しよう。アットホームな職場になるよう善処する。君の力が必要なんだ」



 気がつけばブラック経営者ブライアンのようなことを口にしながら、説得をしていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――


どうにもこの主人公(作品)はシリアスが最後まで続きませんね(汗)

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