第137話 緊急会議

 メデスが消え、3人ともその場であ然としていたい衝動に駆られる。

 それほど非現実的な時間だったのだ。しかし俺達にはそんな時間は残されていない。


「タナカさん、私達、、。」


「ああ、状況はもう動いてるんだ。立ち止まってるわけにはいかない。

 ララ、エレイシア、パーティーメンバーとこの街の主要人物すべてを集めてくれ。

 急だがこれから作戦会議だ。まずは今起こったことの説明だが、それすら大変だな、、。」


 動揺が見えるララに敢えて本題とは違う問題点を愚痴り、おどけてみせる。

 大変だろうがそんなことは本当はどうでもいいことだ。

 なにせ二週間後には神龍含むドラゴン達との戦争が待ち受けているのだから。


 混乱しているときこそ動いてもらって気を紛らわせてもらおう。ララとエレイシアに走り回ってもらい、パーティメンバー含む総勢15名ほどの会議が始まった。


「皆さん、急に集まっていただき感謝します。火急の要件ができましたので、ご説明させていただきます。それでもまずはこちらにサインをお願いします。」


 ララとエレイシアに動いてもらっている間に用意した「強制証文」を皆に廻してサインさせる。

 内容はこの会議での虚言の禁止と内容の他言無用だ。

 邪神教徒の長のロクスなどは流石に訝しるがこちらも余裕がない、逆にそれを見てメイスは状況がかなり切迫していることを察したようだった。


「お気持ちはわかります。ですので、まずはこちらから1つ真実をお話します。

 我々メンバーはあなた方信徒達が街の結界の破壊に関わる者達かと疑っていました。しかし、その容疑は先程のとある一件で潔白であることがほぼ証明されました。

 そのあたりのこともご説明しますので、確認のためにもこのサインは必要なのです。」


 余裕がないとはいえ、「強制証文」では強引にサインさせても無効なのでまずはこの会議が信徒達を糾弾するためのものではないという安心感を与えてから本題に入ることにした。

 この言い回しでは後々、弱味になりかねないので本当は避けなければいけないやり方だが俺もそれより優先して考えることが山積みでやや、適当にあしらったのだ。


 そしてこの俺の言葉にメイスも当然反応する。が、何も言ってはこない。どうやら無言を貫くことで先を促しているようだ。


 有り難い。耐え難い感情も理性と俺への信頼で抑えてくれるというんだ。

 ならば期待に応え、話を進めよう。無論、期待通りと言えるほどの楽観できる内容ではないのだが。


 ロクスがこれ幸いと「私達を疑っていたのか!」と大袈裟な振る舞いも適当になだめ、むしろそれを確固とするための会議だということで割と意気揚々とサインをする。

 まあ、その気分もドラゴンが攻めてくると知れば撃沈するのは明白だが今は放置しておこう。


「では、まずは確認からです。ロクスさん、あなたはという少女を知っていますか?」


(おまえに『邪神様の世話役』と紹介された少女はとんでもない地雷だったぞ!)という当たり散らしも少し混じっていたのは内緒だ。


「んっ?誰だそれは、聞いたことはないがここの住民か?」


 ロクスの返答は予想通りのものであったしとぼけているわけではないのはスキルによって証明されてはいるのだがやはり、ナンカ、ムカツクッ。


(それでこっちは心の準備ができてないままトンデモない目にあってんだぞっ!)とキレたいが逆ギレなのでやめておく。


 ただまあ、これで裏取りは完了だ。メデスの言っていた通りこれは彼女のスキルによってそう『思い込まされて』いただけなのだろう。


「タナカ、そろそろいいかな。本題を先に聞かせてくれ。」


 メイスが遂に痺れを切らして口を開く。確かにその通りだ。この先の話はあまりにも重すぎて先延ばしにしたくなっているがそんなことは許されない。

 他言無用のサインももらっているのだ、すべてを打ち明けよう。


「……、わかりました。先程まで私とララ、エレイシアが体験したことをそのままお話します。荒唐無稽のお話ですが先程のサイン通り嘘偽りなどありませんので、しかと聞いてください。――――。」


 こうして回りくどい前置きから事の顛末を話し出す。

 反応は様々だった。

 元の住民のまとめ役やロクスなどはやはり狼狽を隠さなかった。

 なにせ蛇神を上回る龍神が他のドラゴンを引き連れて攻めてくるというんだ、普通に考えれば絶望しかないだろう。


 メイスはというと目を見開いて話を聞いていたかと思うと、最後にはワナワナと腕を震わせながら固く拳を握っていた。

 当然、絶望で戦意が失くなっているのではない。


「そうか、、そうか。では、すべての魔物を焼き払い、その少女に会いにいかねばな!」


 その目は復讐の炎で燃え盛っていた。

 そして、始めは他人事のように見守っていたラディッツオも本来の獣性を取り戻していた。


「そうかい、あのゴーレムどもに親玉がいたのか。ククッ、いいじゃねーか。ドラゴン退治は久方ぶりだ、腕が鳴るぜっ。」


 一緒に行動している中で聞いたラディッツオの伝説。齢15にしてBランクダンジョンのボスのドラゴンを単独撃破してみせたという逸話。

 これこそが38歳というギリギリ現役の間にスキルレベル8までに到達した秘訣だ。

 若いときの無茶なレベルアップを強引に成し遂げたことで最大HPとMPを急激に上げ、それによってスキル経験値を稼ぎまくったのだ。


 まさに伝説の『勇者』のような在り方だな。

 通常レベル1のまま計40年のブラック労働という鬼畜物量でスキルレベルをカンストした人間が霞んでしまう主人公像だ。


「少し話が逸れますが、この中で『勇者』と『魔王』の伝説に詳しい方がいれば聞かせてほしいのですが。」


 『勇者』といえば、メデスが少し気になる言い回しをしていたのを思い出す。

 当然後で『自動手記』を使ってメデスとの会話はすべて書き出して検証するとしても先に聞けることは聞いておこう。


 この世界において『勇者』と『魔王』とは実在したかも怪しい伝説の存在だ。

 だが彼女は『魔王』のスキルさえ扱えると豪語していた。かといって他のスキルも使っていたので『魔王』とは限らないが。

 まあ、やってることは完全に『魔王』ムーブだけどねっ!


「今は迎撃に向けての会議が優先だとは思うがね。まあ、敵の正体を探るのも必要なことか、、私が説明しよう。」


 メイスの説明が続く。


 ―あらゆる情報整理が必要の中、当然会議は長引き、夜は更けていった。

 

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