第23話 記念品

「さて、こいつらだが記念に一つだけ貰っておくとするかな。」


 コボルトの亡骸の前に1人呟く。

 今日はもう戦闘する気はないのでここに長居して他のコボルトがきてはマズイのだが、どうするかというと腹を開いた方から魔石を取り出した。


 魔石は魔物を作り出す原動力と言われ、魔力が宿っているので生活や装備品にも役立つものだ。

 とはいえ、Eランクの魔石は大した値はつかないのでスキルブックで資金稼ぎした俺からしたらただの記念品になる。


 解体スキルもないし、借り物の魔道具袋に血抜きもしていないコボルトをいれ袋を汚すこともない。

 肉は筋が強く食べられないし、せいぜい牙が釣り針か、毛皮が寒い地方で使われる程度だが、どちらも加工賃のが高いくらい素材は人気がない。


 そもそも俺は今、上役以外の職員にはやってることが秘密なので、素材の買い取りがしてもらえないという強いハンデがある。

 契約のときに話し合い、五日に一度、定期報告と称してギルマスの部屋を訪れ、そこで魔石の買い取りだけは認めさせた。


 あくまでダンジョン攻略の試験なのでいい落とし所だったろう(ダンジョンの魔物は魔石を残してダンジョンに吸収され素材は残らないので)。

 残りの亡骸は森の動植物に任せることにしよう。


 これでは人間の一方的な残虐行為に見えるがそうではない。

 コボルトは人が街から街へ移動する際に森から出てきて襲う場合があるので一応討伐対象である。


 スライムがいれば狩るかな、なんて考えながら森を出るが日が昇ってからは晴れていたこともあり、見かけることはなかった。

 明日以降も期待できないだろう。


 森を出て歩き門をくぐり、街へと帰ってきた。精神的にも疲れていたので、食料を買ったらすぐに寮に戻ろうというところで嫌な奴に声を掛けられる。


「おや、タナカ君。門のほうから来たということはあの初心者用の森にいってたのかな?」


 何故かいるマイヤーに急に煽られる。何やってんだこいつ。


「疲れている様子だがそんなんでDランクダンジョン攻略ってww」


 暇なのか?いや、俺の仕事の肩代わりをしてんだから暇なわけねーよな、働け。


「ところでその、タナカ君。君が以前連れていった取り引き先なんだが、このあたりだったよな?この辺は民家ばかりで同じに見えてイカン。」


 コイツッ、よりによって迷子かよ。それでも煽ってくるのちょっと尊敬するわ、嘘だけど。


 こいつは俺が勘違いしてるとよく言うが、お前こそ副ギルドマスターの仕事勘違いしてるんだよな。基本ギルマスの代理で、対外的なこともやるけど前の副ギルマスはどっちもいるときはちゃんと内務も見ていたぞ。


 来たばかりの頃に俺が取り引き先周回RTA(リアルタイムアタック)ルート教えてやったのにそれ以降、全く取引先に顔を出していない。


 この辺りは民家ばかりだが、その主婦達に皮のなめしの仕事の前段階をやって貰って、鍛冶師などの加工先に持っていくのも大事な冒険者ギルドの仕事なんだよ。


「はあ、あっちの角の家がこの取り引きの仕切りのお家です。くれぐれも、失礼のないようにお願いしますね。」


 君が私に失礼なんだよと、グチグチ言いながら向うマイヤー。駄目だ心配なんてするな、


 それこそ社畜根性だ。

 俺は冒険者になるんだと気持ちを切り替え、寮へと帰る。

 まだ決定ではないから寮にいるが、目処が立ったら出ていく準備をしないとな。

 なんて考えながら記念の魔石をきれいに洗い、ベッドサイドの小物入れに見えるように置いた。


 これを見ればいつでも俺は冒険者としての初心を思い出せるだろう。



 

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