第50話 決着

 ―『正直ソロだと全盛期の私でもどうなるかわからないほどのモンスターなんだぞ!』―


 レッドウイングリザードに向かって走り出しながら、俺はブライアンの言葉を反芻していた。

 まるで、今からの行動に裏付けでもするかのように。確かに、戦ってみてわかる。この怪物に「剣士」のジョブのみで戦うのは分が悪い。


 まず、飛行されたらそれだけでもう厳しい。

 形式上はCに分類されているが、リザード類はどれも動き出しが遅いだけで、ステータスも一つ上はあり、攻撃を凌ぐのさえ例え、Aランク冒険者でも十分に厳しい筈だ。


 ならばどういうことか。それは、


 ―出合い頭の一撃が決まれば、戦局は勝勢―


 これくらいなければ、あの発言はありえない。

 俺はブライアンのステータスを知っている。


 もう十年以上前だが、俺が『書記』のジョブスキル8「英雄譚作成」を発現し、ブライアンに報告をした。

 すると、出張と銘打って王都に連れていかれ、有力者(中にはSランク冒険者などの実力者も)のご機嫌取りに使われたが、その出張中に


「その、私のもお願いできるかな?」


 なんて、照れながら言ってきやがった。キモチワルイ。

 ちなみに、渡してきた手間賃は銀貨10枚。

 おまけにセコい!


 そうして出来上がったのは「英雄武勇譚」というより、「英雄好色譚」ではあったが、その時に話を聞くだけでステータス他細かい情報が作者に伝わり、臨場感たっぷりな本を執筆できるのが、このスキルである。


 魔力消費はないので、催眠などの効果ではなく、あくまで文学としての至高の一品を作成しているのだろう。

 発現してからは社畜スキル「書記」の中でも、最低のゴミスキルと思っていたが、今となってはこれがスキルを知るための「スキルブック作成」の前準備になっていたとは。


 そうして確認したブライアンのステータスは、通常レベルは54、ジョブスキルレベルは5。

 通常スキルで攻撃力に関するものは「剣術」がlv3で、「剛力」は持っていなかった。

 わかってはいたが、基礎鍛錬をサボりすぎ。

 それでも、このステータスで弱っていないレッドウイングリザードに、決定打を与える自信はあったのだ。


 俺の今の通常レベルは27。そこに、「ソーマのポーション」でブーストし、「剣術」lv2と「剛力」lv3でアシストして、弱りきって抵抗できない今なら、『剣士』のジョブ4の単体強攻撃スキルで決められる!!


 持っている剣はレッドウイングリザードを上回る、レッドワイバーンの牙で作られたワイバーンソード。


 状況はすべて書き出し、検討された。

 後はそれを実行するだけ、それが「書記」の戦い方だ。


 走り出し、レッドウイングリザードの足元まで来たところで技名を告げる。


「三日月刃!!」


 刀身から5倍近くも衝撃波のエフェクトが飛び出す、まさに理外の一撃。

 ここで決めるとばかりに、流石の俺も吠えた。


「ウオォォー!! うおっってエッ、えっ、ナニコレ聞いてないよ!!」


 体が勝手に引きづられる。何と、この技の技だった!

 取得した3つのジョブスキルの内、これだけは昨夜の取得で、魔力消費もあるのでぶっつけ本番になってしまった。


 それでも「英雄譚作成」で情景が見えるほど克明に知っていたので、問題はないと高を括っていた。

 それなのに、なんだよあの爺っっ。なにが、


「その時、私は確固たる意思を持って大地を踏みしめ、蹴り上がって技を放ったのだ!」


 だよ! 話を盛りやがって。

 情景が見えるだけじゃ、意識か固有モーションかなんてわかるかよ!

 そうして、俺は勝手に背中を押されたスカイダイビングやバンジーのときのような絶叫を上げる。


 大地を蹴り、空中で二回転させられ、そのままレッドウィングリザードの喉笛に一撃を入れた。


 今の二回転、いる?? 

 アラフォーのおっさんに何させてんだよ!!


 ともあれ、強大な一撃は決まった。

 が、喉笛は裂けたが、首は断ててはいない。


 固有モーションはどうやら、技の放ちまでのようで、空中に自由に投げ出されてしまう。

 何とか「合気道」スキルで背中から受け身を取った。フザケンナ、勝手にやるなら最後まで面倒みろ!


 どうやら俺も高いポーションを二本キメて勝負に出たので、テンションがおかしくなってきている。

 それでも、レッドウイングリザードに止めをさせたか、わからない。


 すぐに動き出したいが、ステータスが追いついてないのに、無理にジョブレベル4の固有モーションをさせられた影響で、思うように体が動かない。

 仕方ないので、剣は諦めて懐からリボルバーを引き抜き、敵の目や鼻から脳へのダメージを狙い、乱射する。


 5発打ち、早くリロードせねばと慌てるが、「拳銃射撃術」lv1があっても銃弾を取りこぼすほど手が震えている。

 落とした銃弾を拾おうとしたその時、一体どれが致命傷だったのか、レッドウイングリザードの体が足元から消えかかっていることに気づいた。


「かっ、勝ったのか……」



 こうして何とも締まらない、完封完勝劇という形で、過去最大最強の魔物との戦いは幕を閉じた。





あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

節目の50話での決着

いかがだったでしょうか。


 まだまだダンディズムには程遠いタナカさんの戦闘でしたが色々と四苦八苦しながらも書いてて楽しかったです。


もし皆様も少しでもクスっときた方がいれば


フォローと★★★のレビューでの応援よろしくお願いします。



 ここからは会話中心ですが話をまとめますのでどうかお付き合いください(_ _;)


 




 

 









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