第15話 話し合い
いつも通りに出勤して通常業務をこなしていると昼前にはギルマスが出勤してきた。そのまま2階の彼専用の部屋に入ると副ギルマスも後から入っていく。
それを見て俺も覚悟を決めて部屋のドアをノックする。
「すみません、タナカです。目を通してサインをいただきたい書類があります。よろしいでしょか。」
「君ィ、後にしたまえ!」
「まあ、いいよ。入りたまえ。」
副ギルマスの嫌な声に続いて、ギルマスの了承の声が聞こえたので入ることにする。
ここからが俺の本当の冒険の入口だ。
やや出たとこ勝負になってしまったのは残念だが、だからこそ勇気を出さなければいけない。
なに、手持ちの金貨は100枚弱。話が拗れて追放じみた形になったとしても、数年はフラフラできる額だ。人間お金があると強気に出られるというものです。
失礼しますっと、中に入り副ギルマスのマイヤーの嫌味な視線をくぐり、ブライアンと向き合う。
思えば20年前、この部屋でこの男との話し合いがすべての、否2度目の地獄の始まりだった。
清算のときだろう。
「こちらの2つになります、どうかよろしくお願いします。」
俺は辞表と冒険者登録手続申請書の2枚を重ねて渡す。ああ、はいはいと判子を用意してただ押すだけのような仕草をしたブライアンはそのまま動きが固まった。
「タナカ君、これはどういうことだい?話なら聞くがこんな不躾に君がくるとは思っていなかったよ。
僕達は上手くやってきたじゃないか。」
と、平静に努めながらもやや不機嫌感を出してくる。よう言うわ、上手く使ってきたの間違いだろ。
「お二人とも揃っていますし、ここは私の不退転の決意を始めにお伝えしておこうかと。」
そう俺が告げると、話についていけないマイヤーがブライアンの手元の書類を覗き込む。
「貴様、失礼にも程があるだろう!無作法に部屋に入ってきたかと思えば騙し討ちのように辞表を叩きつけるとは。
まずは直属の上司である私に相談からだろうが、何を思い違いしている!!」
「マイヤー、君がいないときに話を持っていくことも考えたがこれは私からの精一杯の誠意だ。少し黙ってそこにいてくれないか。」
と、俺も今日はやり合う姿勢を見せる。
「キッ、キサマその口の聞き方はなんだ!!上司に向かって!!ギルドマスター、構いません。こんな奴、切り刻んでスラムに放り投げましょう!」
と完全に怒髪天を突き、今にでも行動を起こしそうだ。流石に挑発しすぎたかとたじろぐが気持ちは負けていられない。
「二人とも落ち着き給え、前から君らの険悪は気づいていたがどうやら放置していた私の落ち度のようだな。
君たちには二人で私を、ひいてはこのギルドを支えてほしいと心から思っていたのだが。」
なんてズレたことをブライアンはのたまう。
別に俺は今回の行動をマイヤーとの口喧嘩の延長でやってるわけじゃないんだがな。
「取り敢えずタナカ君の話を聞こうじゃないか。
マイヤーも今は抑えて私に任せてくれ、無理なら退室してくれて構わない。
タナカ君も無闇に挑発はしないで話し合おう。」
「くっ、わかりました。」
「はい、お願いします。」
こちらとしても有耶無耶に誤魔化したりせず話し合いができるだけでも最初にカマしたのは正解だったなと心を落ち着かせる。
「それで辞めてどうすると言うんだい、いいアテの勤め先のオファーでもあったのかい?
どう言いくるめるられたのかは知らないが今から新しい職場はツライぞ。
待遇に不満があったのだろうがまあ、確かに君の頑張りに対して昇給はここ最近なかったね。少しはこちらも見直そう。考え直してはくれないか?」
結局はいつもの手口できたか、今さら多少の昇給を餌でこちらが揺らぐわけもない。
「それは勘違いです、ギルドマスター。2枚目の書類にも目を通してください。」
俺がそういうとブライアンは手元を、次いでマイヤーも書類を覗き込む。
「おい、これは何の冗談だい。冒険者登録って。
この申請書類にも書かれているが君は38歳だぞ、そして通常レベルは1のジョブは『書記』だ。
君はもっと大人だと思っていたよ。冗談ならこれくらいにして業務に戻ってくれないか。」
真面目に応対していたブライアンも呆れ顔で書類から手を離す。黙っていろと言われていたマイヤーも声を上げて笑い出すと
「傑作だな、今までの行動はこのジョークのための演出だったんだな。これは失礼、本気にしてしまったよ!!」
っと、乗ってくる。
熱くなるな、俺。
俺にはジョブレベル10の覚醒スキル「スキルブック作成」があるんだ。
どれだけ笑われようと夢を見る資格はあるさ。
―交渉はここからだ―
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