第141話 メイスの賭け
こちらの切り札である先制攻撃での殲滅魔法。しかし、黒龍―クリカラには届かなかった。
「クッ、手筈通り撤退しながらの戦いだ。メイスの回復まで粘るぞっ。無茶はするな!」
無論、この可能性も考えていなかったわけではない。しかし、こうなっては勝率は極端に下がったのは事実だ。
それでも、やれることをやるしかない。
クリカラにはともかく、他のドラゴンたちにはメイスの殲滅魔法は致命傷足りえる。
残ったドラゴンはクリカラを除くと13体。リードライトまではまだ距離もある。
せめて取り巻きのドラゴンを排除できればラディッツオのジョブスキルを中心にクリカラを倒す算段がつく可能性も――。
自分で頭の中で言語化してもそれが無謀なことはわかっている。
クリカラにはダメージの気配すらない。広範囲攻撃とはいえラディッツオの最大攻撃以外ではおそらく単体でも最大火力だったはずだ。
また他のドラゴン達とてただの雑魚では決してない。俺達のパーティーでもタイマンで抑えるのはラディッツオとて不可能だろう。
それでも希望を捨てるわけにはいかない。こうなる可能性も初めから覚悟していたことだ。
まずは切り札のメイスの安全な回復を促すため、俺のアイテムボックスに避難させようと近づく。
しかし、そこでメイスが口を開いた。
「言葉が通じるようだな、黒き龍よ。今の攻撃は私のものだ。少し話がしたいのだが、いいか?」
なっ、相手に気づかれずの先制攻撃だったため、まだこちらの誰の攻撃だったのかは敵には判明していないはずだ。
わざわざ狙い撃ちされるリスクを取って時間稼ぎするつもりか?しかし未だ飛行魔法も使っているしこれでは効率が悪いだろうに何を考えている?
近づいていた俺を手で制し、ここは私に任せろと横目で訴えてくるメイス。
何か考えがあるのは間違いないが、いったいどうしようというんだ、、。
俺以外のメンバーにも不安が広がるが
「ほう、自ら名乗り出るのか。知っているぞ、今のは人間の中でも我らに匹敵する攻撃力を持つという『魔法使い』の一部が辿り着く限界値だろう。
それでどうするつもりだ?力を認めさせたことで命乞いでもするつもりか?」
興が乗ったのか、はたまたこちらにはもう為す術がないことを見抜いたのかメイスの言葉に応じる
しかし、メイスからの言葉はそれ以外のものだった。
「いいや、オマエの主との協約の件だ。それならばそちらも無碍にはできまい。
いいか、はじめにハンデとしてそちらには街へ攻め入る日時の指定があったのは当然聞いているだろう?」
「………。」
黙って話を促す
否定もないしこのまま進行すればメデスの宣言通りの日時だ。肯定と取っていい。
「それはハンデとしてそちらが用意したものだと聞いている。だからこそ、こちら側にはその開戦日時を守る必要はなく、こうやって先回りして先制攻撃をした。卑怯とは言うまい?」
「……、何が言いたい?そんなことを言うつもりは当然ないわ。倒れた同胞の仇は取るがそれだけだ。余計な時間稼ぎならもう終わりだぞ。」
やや、不機嫌さが伝わるように重低音の念話が響く。
「そうではない、つまりだ。そちらが宣言通りの開戦日時を街へ辿り着かなければ協約違反となりそちらの負けといっているんだ。文句はないな?」
……、そうきたか。後から俺とメデスとの協約を見てからそんなことを考えていたのか、、。
はっきりいって屁理屈だ。しかし、その条件をこの場で飲ませられれば決定打のないこちらにも僅かな希望は出てくる。
それでもほぼ絶望的なのは変わりないが。
「……、自分から仕掛けておいてよくもまあ、。
いいだろう。そんな要求飲む必要はないだろうがこの場に主がいない以上、完膚なき勝利をするしかあるまい。
おい、同胞達よ、この場は任せた。私は先に行かせてもらう。無論、指定の開戦日時までは手を出さずに待っていよう。
それまでに我が同胞達を倒してきたならば相手をしてやる。」
チッ、そうきたか。分断は戦力差を考えれば助かるがそうなれば上手くいっても街付近でこの
それは殲滅魔法を使えば街にも甚大な被害が出ることを意味する。
しかし、
「ああ、それで構わない。また後で会おう、黒き龍よ。」
「ふん、我が同胞を侮るなよ。奇襲ゆえにやられたモノもいたが正面からなら私以外でも防げないわけでもないぞ。それにそちらにもう一撃撃つ余裕はあるのかな?」
存外にこちらを煽ってくる
いや、まあ知能が高いってのはそういうことなんだろうけど。
しかし、こうなってはメイスの思惑に賭けるしかない。俺たちは成り行きを見守り、
近づいてきただけで凄まじいプレッシャーと物理的な熱量だ。性格はやや人間臭くともその存在は今まで出会ったどの魔物よりも圧倒的に上回っている。
「メイス、、」
「どうやら一つ目の賭けには勝ったようだな。後二つほどいい目が出ることを祈って最善を尽くすぞ!」
意味深に発破をかけるメイス。この言葉に一つの可能性を思い出す。まさか、、。
「
しかし、俺たちに残された選択肢などない。既に
「では、10分だ。時間稼ぎを頼んだ。」
そう言うと自前の魔道具袋からこの準備期間になんとか用意した『ソーマのポーション』を取り出して一気に飲み干すメイス。
おいおい、今それ飲んで対
材料が希少だがあるとないとでは大違いなため何とか工面した一本だぞ。
だが、今、目の前とて大ピンチなのも事実。
―こうして、残った13体ものドラゴン達との第2ラウンドが始まった。
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