第142話 パーティーとして、

GRRAAAaaaarr同胞を殺したお前たちは絶対に許さん、八つ裂きにしてくれるわっ!!」


 残ったドラゴン達が口々に雄叫びを上げ、前にいた2頭が突っ込んでくる。強さはキマイラ以上、蛇神以下って所か。とてもじゃないが、この人数に真正面からは戦えない。


「ララ、頼む!雷嵐サンダーストーム!」

「はいっ!結界魔法サークルバリアー。」


 戦争という規模に備え、このような状況も想定はしていた。強さでも数でも負けているのなら各個撃破しかない。

 まず、初撃に空中の相手へ範囲雷魔法を放つがこれだけでは一頭も脱落しない。

 レッドウィングリザードやワイバーンなどの亜竜と本物のドラゴンの違いは体のスペック以上に魔法障壁や攻撃魔法などを持つところだという。

 ただの魔法ではいくら放っても無駄だろう、しかし出鼻を挫くことはできた。

 その隙にララの結界魔法で突っ込んできた2頭のドラゴンだけを俺達と一緒に閉じ込め、後のドラゴン達を外へと追いやる。

 先程の黒龍の命令があるためここを離れることはないだろうが、ひとまずはこれで戦闘になる。


「ラディッツオとエレイシアでまずは一頭を仕留めてくれ。もう一頭は俺が抑える。

 ユキはララの護衛と余裕があれば戦況を見て撹乱のサポートだ。」


 いつもならララの護衛に回すのはエレイシアだが今は各個撃破のスピードが命だ。外には11頭ものドラゴンが健在ですぐさま結界の破壊へと行動に移している。

 いかに外からの攻撃に強い結界といっても限度はすぐだろう、時間がない。


「出し惜しみなしでいくぞっ、合わせろ!」

「ハアアアッッッ!!」


 阿吽の呼吸で両サイドから潜り込み攻撃を畳み掛けるラディッツオとエレイシア。

 二人とも飛行魔法にも随分と慣れ、タイミングも完璧だ。ドラゴンが仲間をやられて激昂し、牙で仕留めようときたのも幸いしたな。


「お前の相手はコッチだ!」

GRAAar!!舐めるなーっ!!


 俺もとにかく動いて的を絞らせない。立ち止まって受けられる質量ではないからだ。

 かといって他のメンバーを狙われてはいけない、『翻訳』を使い相手を挑発してヘイトを集める。


「は、早くお願いします。もう持ちませんよ!」


 ララの叫び声が聞こえる。結界の外はまさに地獄絵図だ。十頭を越えるドラゴンが魔法、爪、牙とあらゆる方法で結界を破壊しようとしている。

 戦闘中に結界が壊れたら待っているのは確実な死だ。俺も耐えている場合なのか、、仕掛けるべきか、、。


「今だ、雷神の槍ヴィジャヤ!」

「ハアアアッッ!防御不能剣アーマーブレイク!」


 俺が一瞬の思案をしている中、もう一方の戦いでは決定打が飛び出したようだ。よし、それなら―


 ヒュン!

「GRAAA!!」


 俺も相対するドラゴンの懐に飛び出す寸前、そのドラゴンの目に毒矢が刺さり、悶えだす。ユキが作ってくれたチャンスだ。

 

「三日月刃!!」


 俺はこのパーティーではアタッカーではないので他のスキルブックを優先しており、まだ剣士のジョブスキルはレベル4止まりだが準備期間に剣は新調した。

 キマイラの爪とAランクダンジョンに挑んで手に入れたヒヒイロカネをミックスしたオリジナルの剣だ。その硬度と切れ味はドラゴンの鱗にも通じうる。


「GYAAaaa!!」

「ぐあぁぁっっ!、」


 しかし、首を断ち切るまでには届かなかった。固有モーションで硬直している所に痛みで暴れまわるドラゴンの尾でふっ飛ばされる。

 くそっ、ここまでみんなが活躍してるのに俺だけ決まらねー。


「ウラアァァ!!」


 ふっ飛ばされながらも敵から目を離さずにいるとどうやら止めを刺したラディッツオがこちらにも駆けつけ決めてくれたようだ。


「おっと、、すみません、メイス。」

「いや、十分だ。ここからは私も参戦しよう。」


 ふっ飛ばされた俺はそのまま空中で戦いを静観していたメイスにキャッチされた。ソーマのポーションのおかげで短時間でそれなりに回復したようだ。

 しかしまさかこの年でほとんどお姫様だっこのようなキャッチをされるとは、、恥ずかしさから今のはなかっことにしようとするが、――


じゃれてる場合じゃないわよ、もう壊れるわ!!」


 結界を注視していたユキから警告が入る。ララはもう声を上げることもできないほど結界の維持に限界まで粘っていたようだ。


「戯れてるわけじゃない!!みんな一箇所に集まれ!!」

 

 パリィーン


「「防御魔法プロテクト!!」」


 俺の言い訳より早く、上空からのドラゴンの体当たりで結界は遂に瓦解する。瞬間のことでわからないが俺と数名がプロテクトを間に合わせるがその上からの圧力で一気に下へ飛ばされるパーティーメンバー達。


土波サンドウェーブ


 そのまま地上まで落下させられ、ぶつかりそうになるがメイスの範囲土魔法によってクッション代わりに間に合わせ、メンバー達が次々と柔らかい土に埋もれていく。

 本来このような使い方ができる魔法とは思えないのだが、メイスはこういった創意工夫のようなアレンジが得意で、何時ぞやのラディッツオとの合体技なんかも同じ要領らしい。


「プハッッ、、。皆、無事か?」

「ああ、今のは結構危なかったがな。」

「……、メイスさんって冷静に見えて実は一番危ない人なんじゃないの?さっきの怪物との交渉といい、普通じゃないわよ。」

「……思い返せば、この人基準に合わせて頑張ろうと仕事しだしたのが俺のギルドでのブラック労働の始まりだったかもしれない、、。」

「タ、タナカさん。。」


「よし、皆無事のようだな。立て直すぞっ!」


 それぞれの安否確認と良からぬ感想も洩れたが皮肉が出るのは重畳だ。

 なにせピンチの連続だがそれでも俺達は戦えている、単体の戦闘力も数でも上回られているのにも関わらずにだ。


 ―それはつまり、俺達もやっと一つのパーティーになってきたということ。

 絶望的な状況が続くがそれでも仲間がいればなんとかなると信じて前を向こう。


 




 

 

 


 

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