第143話 炎と氷

 開戦の殲滅魔法での八頭に続き、二頭のドラゴンの討伐には成功した。しかし、まだ上空には十一頭ものドラゴンがこちらを睨みつけていた。


 非常にまずい状況だ。こちらは地上に固まったことでこのままでは上空からの一方的なブレスや魔法攻撃が考えられる。

 今一瞬だけ攻撃が止んだのはドラゴンたちに比べ、俺たちがあまりにも小さいので飛ばされた先の捕捉のためだろう。しかし―


「好機だな、奴らはこのまま遠距離で仕掛けるつもりだ。この間合いは私のものだというのに。」


 熟練の魔法使い―メイスが不敵に笑う。対魔物相手だとこうも豹変してしまうのか、普段の紳士然とした澄まし顔はどこにも見当たらない。

 

「私とタナカ以外は敵の攻撃に合わせてプロテクトを張ってくれ。4人がかりでも相当厳しいがチャンスでもある、頑張ってくれ。」


 どうやらここまでの戦いでドラゴン達も自分達がバラバラに戦うことで被害が増えていることに気づいたのだろう。

 タイミングを合わせて一斉にブレスを放つつもりのようだ。


 その隙に俺はポーションを、ララとラディッツオはマナポーションを飲みながら作戦を立ててこちらも望む。

 この作戦が上手くいくかは実戦に乏しい俺にはわからない。が、それでいい。今はメイスを信頼するときだ。


GRAAAaaar灰すら残さず焼き尽くしてやる!!」


「作戦変更だ!確実に炎のブレスがくるっ、水魔法で防げっ!!」


 ドラゴンの動きを見て確信をしたメイスから指示が飛ぶ。

 他の攻撃魔法の場合にはリスクがでかすぎるので取れない作戦だ。

 が、黒炎を纏った龍神が引き連れてきたドラゴン達はここまでを見ても間違いなく火竜に属するドラゴン。一斉攻撃ならこれがベストなのだろうがそれ故に読まれてしまう。


「「水波アクアウェーブ」」

「「氷嵐アイスストーム」」


 同時に魔法を展開する攻防だ。


 まずは超火力のブレスが襲ってくるが4重の範囲水魔法で防ぐ。

 本来、質量の多い水魔法を上空に放つことはない、その後に重力で戻って押し潰されるからだ。

 しかし、ブレスの超火力によりすぐさま蒸発していき、壁が薄くなっていく。

 熱の多くは外へ逃げている筈なのに凄まじいサウナ状態だ。肌寒い今だからできる作戦だな。夏ならこれだけで敗北していたかもしれない。


 目の前の大量の炎と水の攻防で把握できなかったこちらの攻撃の成果だが、ブレスの炎が弱まることで視覚的にも、そしてその意味としても理解する。


 空中のドラゴン達のさらに上空からの氷魔法により、翼を氷漬けにされドラゴン達が落下する。


「よっ、避けろっー!!。」


 ブレスがおさまったところで慌てて皆も避難する。空からドラゴン達が降って来たのだから仕方がない。


「ふっ、はあっても普段共同生活をしないドラゴンにはが足りないようだな。下手に慣れない協力攻撃などしなければそちらの優位だったろうに。

 さあ、皆でこのまま氷漬けにしてくれ。火属性だからダメージにはならないがまとめて時間稼ぎをしてくれれば十分だ。」

 

 メイスが勝ち誇り、指示を出す。

 指示に従いながらその真意を尋ねる。


「どうして火属性のドラゴンにこれほど氷魔法が上手く決まったのですか?」


「まず一つ目は例えドラゴンとて攻撃の瞬間は魔法障壁を張れないことだな。

 本来警戒心の強いドラゴンはこんな安易に隙は見せないのだが下手に龍神に付き従い、普段つるまない同種と共闘したことで気が大きくなっていたのだろう。一斉攻撃など一見脅威だが実際は愚の骨頂だ。――まあ、そのことは君との戦いで学んだことでもあるが。」


 王都での戦いを思い出す。確かに勝つチャンスを掴むために俺はラディッツオとメイスが同じ方向に揃うのを待っていた。


「二つ目としてはブレスは魔法とは違って自身の体内の熱量を放出する技だからな。当然、その瞬間は体から熱が奪われ、氷魔法に耐性がなくなるのだ。」


 なるほど、それで同じように上空から攻撃できて麻痺も狙える雷魔法ではなく氷魔法を選んだのか。ん?しかし――、


「そうだっとして敵が違う属性の攻撃魔法だった場合はどうしたのですか?プロテクトと違い、こちらははじめから氷魔法の指示でしたが?」


「その時は同じように作戦変更を指示していたさ。大事なのは2つ同時に作戦変更をしないように敢えて本命からズラシていたことだ。

 こうすることで両方の作戦変更をせず、混乱やミスを防ぐことができる。

 一つだけの指示ならばより的確に状況を判断したと従いやすいだろうさ。」


 なるほど、他の攻撃のときにはプロテクトの指示は変更がないから混乱しにくいと、、。

 は〜、やや難解な話だがこれが上に立つものの統率力ってことか。俺には真似できそうにないな。あの短時間によく頭が回るものだ。


「流石です。御見逸れいたしました。」


「持ち上げなくていい。たまたまいい目が出ただけだ。他の攻撃ならまだまだどうなっていたかわからなかったさ。

 さて、そろそろ回復したのでね、決めてくるよ。コイツラとて、この程度の魔法ならば体内の熱が戻ればすぐに溶かしてくる化け物だからな。」


 氷漬けを俺達に任せたメイスだがMPをソーマのポーションと追加でマナポーションを飲み干し、そのまま上空へと飛び立つ。

 殲滅魔法の準備に入ったのだ、俺達も続いて避難する。


 本日二度目の殲滅魔法が辺り一面に轟く。

 これで取り巻きのドラゴン達を始末することができた。正直今回は幸運に助けられた部分が大きい。

 いて俺の功績を挙げるとすればパーティーメンバー全員が攻撃魔法が使えることで相手の予想を上回れたのもあるだろうか。

 ハンデの中に龍神に声を掛けるだけと言っていたし、スキルブック作成について知っているのはメデスだけなのかもしれない。


 だが、実被害こそ少ないものの、厳しさは増すばかりだ。まずこちらのMP消費が激しすぎた。

 ギリギリの戦いだったので仕方がないのだがそれでもマナポーションにソーマのポーションまで使ってしまっている。


 そして――。残る敵、黒龍クリカラとの戦いがまだ控えている。


 


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