第91話 相対

 薄暗い夜の中、罠と散在する警備兵のいる木々の中へ、ララを抱えて走り出す。

 事前調査で潜入し、「図面作成」は済ませて逃走経路は確保している。

 また、ユキが持っていて俺がまだ見たことがなかった「夜目」という通常スキルがあり、これもニ冊作って使っている。


「な、何だお前は! 何故屋敷の方から賊が!」


 敢えて銃声を鳴らして飛び降りてるので警備兵が近づいてくる。

 って、セルゲイじゃん。いるのは知ってたけど、最初に鉢合わせるとは。


「グアぁッッ」


 何て感想の前にはもうリボルバーの引き金を引いていた。

 ホッカさんの「付与」が施されているので、元の威力と合わせて、例えBランク冒険者のDEF防御力でも問題なく貫ける。


 剣を引き抜こうとする右腕を撃ち抜き、足にも一発。後は相手にもせず、そのまま走り去る。

 当然スキルブックで腕を上げているので、走りながら手足を百発百中で当てられる。

 既に前世の拳銃の達人の域ではない。


 武器使いの戦闘職のジョブスキルは、武器さえ持たせなければ発動できない。

 それ以外は恐るるに足りずだ。そのまま他の警備兵も同様に足を止めずに無力化していく。

 やはり見たことがない武器というのは強烈なアドバンテージで、敵もBランク冒険者程度のステータスはあるだろうが、拳銃に対処ができないでいた。

 

 ララを抱えていても「移動速度上昇」もしっかりと上げている。全力で走ればそうそう追いつかれることはない。

 森には「弓使い」の警備兵がいることも調査済みだが、弓使いなら俺が招待客を抱えているのも見えるはず。

 この速度で走れば俺だけを狙うのは不可能だ。


 走ること五分ほどで落ち合いの場所に辿り着く。

 いるのは警備兵に変装をしていたユキだ。


「任せた!」 


「任されました。でも、これ絶対汚れ仕事のときより重労働なんですけど」


「終わったら臨時休暇とボーナスだ。今だけ頑張ってくれ」


 アメとムチで労働者を使う。これはこれで大変なんだな、と人を雇う側の苦労はまあ、おいといてララをユキに託す。


 ユキにララを引き渡そうとするが、ここまで大人しかったララが抵抗しようとする。

 冷静にユキが口を塞ぎながら抱きかかえる。

 

「大丈夫、彼女は俺の仲間だから。

 後で落ち合うから、今は彼女の言うことを聞いて大人しくしていてくれ」


 小声で囁くと、どうにか納得してくれたようだ。


 とっ、この引き渡しの瞬間を突いて、大木の上から俺へと狙撃をする弓使いの警備兵。

 斥候のジョブスキルで勘付き、「装備脱着」を用いて瞬時に大盾を出して矢を防ぐ。

 ジョブスキルでの攻撃ではララに被害が出る可能性があるので通常の矢だ、これなら十分防げる。


 次の瞬間にはユキは走り出していた、色々いっても流石はプロだな。


 大盾からリボルバーを覗かせ、素早く敵を殺さないように撃ち落とす。ふぅ、これで引き渡しの現場の目撃者も残せたな。

 そのまま俺はこの場に残り、足止めの役割がある。


 ユキには移動速度上昇のスキルブックを惜しみなく使い、また商人のアイテムボックスも使用した。

 これで敵の目がなくなったタイミングでララを隠せば、問題なく逃げ切れるだろう。


 ―ただ2人の例外を除いて。


 控室にいて一足遅れたが、遂に屋敷にいた本丸の近衛兵が森へ入ってくる。当然パーティーの客人達の護衛であるこの近衛兵達の実力は、森の警備兵より格上だ。


 そんな中でも他の追随を許さない先頭には、地を這う大型のネコ科のように疾走する人影がある。

 この男のスピードならほうっておけばユキに追いついてしまうだろう。Sランク冒険者のステータスは伊達ではない。

 これが暴虎ラディッツオか。遠目から見ても、とてもじゃないが人間には見えないな。


 そしてもう一人、この森の上空を一直線に飛行する人影。魔法使いのジョブレベル7で取得する「飛行魔法」を自在に駆使して翔ける、智慧を持つ龍。


 上空からならすぐにユキを捕捉されかねない。

 他の近衛兵はともかく、この二人はここで足止めを―



 否、俺の目的は今ここで二人をだ。


 足止めをしたところで、ユキとララを逃がせても俺が犠牲になんて考えはない。この二人の追い足が俺の逃げ足を上回っている以上、半端な足止めなど意味がないのだ。

 それに別の理由もある。


 

 ともあれ、もう引き返せないところまできているんだ。覚悟を決めて、迎え討つ。


 こうして俺はこの世界の人類最高峰の二人と相対するのだった。

 


 

 

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