第94話 対槍使いの攻防
この会話は、俺がまだ中学生の頃のものだ。
当時流行っていた格闘漫画の影響もあり、武器を持った武術家との対戦に、合気道は有効か師範代に聞いたことがある。
『そうだね、もちろん合気道には対武器の技術が存在している。
暴漢が長柄の武器を持っていた場合にも、普段の稽古を応用して取り抑えることも可能だろう。
ただ、勘違いしてはいけないのは合気道はもちろん素晴らしい武道だけれども、武器術もまた長い年月の中、考えられた人間の英知であり、武器そのものも恐ろしい凶器だということです。
剣道三倍段なんて造語があるけど私は真実だと思っているよ』
まあ、当然といえば当然である。同程度の修練した者同士で合気道が勝てるなら誰も武器など手にはしない。
ちなみに、このとき初めて「剣道三倍段」というのは漫画の造語で、本来は「剣術三倍段」といい、剣術で槍術に挑むには三倍の段位がいるという意味であることを教えてもらった。
『それでは、師範代が剣道の同じ段位の人に木刀を持って襲われたらどう対処しますか?』
今思い返せば、中坊の戯言で、随分しつこい質問だが、こういった質問にも師範代は誠実に答えてくれた。
『そうだね、同じ武道家でそんなことにはならないと信じたいし、そうならないように努めるのが先決だが、やむを得ずにそうなったら基本は逃げる。
取り押さえねばならない相手の場合、使っていいのなら盾が有効だろう。
テーブルでも椅子でもドアなんかでもいいから、とにかく武器を抑えて、振れなくした後に制圧にかかるかな。本物の武人の武器は、躱したりなんて無理だろうからね』
と、返してくれた。にも関わらず俺は
『何だか、合気道というよりカンフー映画みたいですね』
なんて返事をしていた。
このクソガキがっ、戻って叱りつけたい。
小学生の頃から通っていた道場で、子供相手にも偉そうにしない方だったので、すっかり甘えていた頃だ。
親しき仲にも礼儀ありだろうがっ。
師範代はそれでも苦笑いしながら答えてくれた。
『ハハッ、イメージするなら警察のシールドを持っている感じかな? 逮捕術と合気道は関わりがあって、実は相性がいいんだよ』
回想もそこそこに、現実へと立ち返る。
今まさに、最強の長柄武器の槍を大盾で防いでいる最中だ。
こんなもの、一突きでも躱せるものかっ。
躱して懐に入るなどまさに中学生の妄想である。
亀となって猛攻をギリギリで防いでいると、ラディッツオが先に痺れを切らした。
「チィ、足止め目的でやり合う気のないやつに張り合っても仕方ねえ。もう飽きたからな、仕上げはメイスに譲るかっ」
と突きを止め、槍を横払いでフルスイングしてきた。このまま吹き飛ばして態勢を崩したところに、メイスの攻撃魔法で決める肚か。
しかし、突きと違ってこの横払いはここまでで初めて見て反応できる攻撃だ。さらに、突きの動作に比べ、今の態勢はかなり崩しやすい。
「アラよっとっ、って、ウォッ!!」
実力に任せて雑に払った一撃の力は、盾を介して「合気」でラディッツオへと返る。
遂にこんな芸当を可能にしてしまったか、合気道lv6。
前世に教わっていた範疇をゆうに越えた離れ業だ。伝説の開祖を超えてしまったかもしれん。
よし、槍が弾かれ、体を仰け反らしているところに上から盾で押さえつけてやるっ。
という所でなんと、そのまま後方に大きく跳び、空中で体を捻って態勢を立て直すラディッツオ。
いや、猫かよアンタ。
くーっ、やっぱり長柄と合気道は相性悪いなー。
間合いの距離があるから、そのまま組み伏すことができないのだ。
「
なんて感想を浮かべる暇もない。距離ができたタイミングで、メイスの単体上級魔法が襲ってくる。
こちらの態勢は崩れていなかったので、何とか大盾で受ける。
メイスの上級魔法対策として、光と闇は対人間には効果がほぼないので無視するとして、氷には火属性の「付与」を施しておき、雷対策としては大盾の内側に絶縁性の高い樹脂を厚めにコーティングしておいた。
盾の性能がいいのもあり、何とか受けきった所でラディッツオもまた槍の穂先をこちらに向ける。
最強の前衛と後衛を相手に、1対2の戦いは続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます