第110話 side―ラディッツオ かつての記憶

「チィッ、油断した。クソッこの程度っ。」


 つまらねぇドジを踏んじまった、サシでやり合ってる中、タナカが援護くれたっていうのに。

 最近こんなの続きだ、傷の療養と新たなメンバー探しの中メイスの旦那に誘われてヴァイアージ家の用心棒の真似事なんてやってる間に勘が鈍ったか。


 こんな無様さであのクソゴーレムに挑み返すつもりとは聞いて呆れるぜ、、


 ひとまず魔道具袋から解毒ポーションを取り出し飲む。チッ効きが悪いな、ちょっと蛇が特殊だったか。仕方ねえ、このままタナカとスイッチして後ろからあいつの僧侶のジョブスキルの解毒魔法キアリーをかけてもらうか。


 立ち膝から完全に立ち上がろうとしたそのとき


 ドサ

 

 何故か俺は地面に這いつくばっていた。

 クソッ何だこの毒はっ、昔くらった毒蜘蛛アラクネのより厄介じゃねーか。その時に毒耐性スキルもlv1取得した筈だが効果あんのか?

 

 こりゃあ本格的にマジーな、意識が朦朧としてきやがった。



『もう馬鹿じゃないの、アンタがアラクネなんかの毒くらっちゃうなんて。そんなに美人でタイプだったの?ほらっ解毒魔法キアリー。』

『馬鹿はオメーだリサ。んなわけあるか、ほらっとっとといくぞ。』


 ―これはいつの記憶だったか、俺達6人は全員西方の小さな街出身だったが最高のメンバーだった。

 槍使いの俺に魔法使いと剣士は俺の兄弟分で僧侶と弓使いが幼馴染みの姉妹、そしてもう一人は盗賊のジョブを持つ俺の実の弟だったが皆口が固くパーティーメンバーだけの秘密を守っていた。


 俺達ならどんな魔物も相手じゃねー、王都に来てからも連戦連勝で遂には現役では10組に満たないSランク冒険者パーティーとなった。

 そして俺達はあの厳しい森をなんとか抜け『地底古代文明ダンジョン』へとやってきた。


 そこで名実共に歴史上でも唯一無二のパーティーになり弟のジョブの事実も公表して大手を振って凱旋させてやれると信じていた。

 

 ―あの日、一体のゴーレムに仲間全員がすり潰されるまでは。


『あなただけでも逃げてラディッツオ、あなたは私達とは違う本物の天才よ、そしていつか仇を取ってね。』


『ウォォーッ!!リサを離せ木偶の坊!!』


 宝物庫の部屋の前で一体のミスリルゴーレムが眠っていた。俺達がゴーレムを引きつけ弟が中へと侵入する。

 しかし1分と持たずにパーティーは壊滅させられ俺は今のように地べたを這いつくばり僧侶のリサは握り潰されようとしていた。

 宝物庫の罠で致命傷を負いながらも弟は俺にオリハルコンの槍を託して俺の腕で亡くなった。


 その槍で命懸けの特攻をし、腕を破壊したところで記憶は一旦途切れた。

 目を覚ますとゴーレムはおらずミスリルの腕の破片とメンバーの亡骸だけがそこにはあった。―



 朦朧となった意識をかき集める。こんな所で終われるかっ、俺はあのクソゴーレムに人間の強さを叩き込むまでは死ぬわけにはいかねーんだっ。

 こんな毒自力で解毒してやる、歯を食いしばり顔を上げ戦況を見やる。


 タナカはよく粘っているがジョブスキルを使うタイミングがなくジリ貧だ。もうどれだけ時間が経ったのかも曖昧だがもって10分て所か。

 メイスはやはり上手いな、ここまでノーダメージのようだが攻撃魔法を使おうとするとキマイラはダメージ覚悟で突っ込んでくるようだ。

 単純だが厄介な戦法を取りやがるぜ。


 「後5分持たせろ!5分で回復させてやるっ。」

 声は出ないが二人に届かせる気持ちで念じる、己への発破だ。

 この程度の無理ができなくて何が天下のSランク冒険者だっ。


 だが直後、戦いを見ていた上空のキマイラの獅子の頭と目が合った。瞬間こちらに向かって急降下を始める。

 ヤロー、のらりくらりのメイスを諦め先に俺の命を狙いにきやがったのかっ。


「行かせんっ、炎弾ファイヤーボール。」

「メエェー」


 狙いに気づいたメイスの攻撃魔法だがキマイラに届く直前ここまで一度も鳴かなかった山羊の頭が鳴き声を出すと着弾寸前の炎の塊が消失した。


 何だその能力は、見たことも聞いたこともねーぞ。これだから森の魔物は厄介なんだ。個体別に進化しやがってっ!!

 獅子の頭はメイスを見向きもせずに俺に向かって直進する。


 絶体絶命だが誰が諦めてやるかっ、動きやがれこの身体!!

 だが気持ちとは裏腹に俺の目の前には走馬灯がよぎっていた。



防御魔法プロテクト


 それはかつての記憶とは少し違う弱々しくも意思のこもった詠唱だった。

 目前まで迫っていたキマイラが防御壁にぶつかりその隙に、


「ハァァーッ、三日月刃!!」


 女剣士のジョブスキルが決まる。その声はかつてではない、つい先日間近で聞いた清涼なのに力強い声に似ていた。


「ちょっとオジサンデカすぎなんですけどっ。」


 小生意気に動けない俺を運ぶのは大人しくしおらしかった弟とは似ても似つかないその姿。


「悪い、助かったよ。ユキ、ララ、エレイシア。」


 ―そう、どうやらこれは走馬灯などではなくまだまだ足手まといと思っていた若い娘3人に俺は助けられたようだった。



―――――――――――――――――――――――――――――


いかがだったでしょうか?

ここらあたりでメンバーの深堀り回ということでラディッツオの過去と今を描いて見ました。


「いつもと毛色が違うけどまあ、良かったよ。」


と思ってもらえたら嬉しいです。

 

まだの方がいらっしゃれば是非★★★をつけて次話以降をお待ちください(_ _;)

 


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