第34話 啖呵

 翌朝、先にアイテム屋に寄り補充をすませてからギルドに向う。店番はユーリーだったがお互い余計なことは言い合わなかった。


 ユーリーがギルドに赴き、今の俺が職場からほぼ完全に離れていることを知り、気を遣ってくれたんだろう。俺も有り難くそれに乗らせて貰った。


 さて、あの退職直談判ぶりのギルドに到着する。

 昨夜までならグダグダと立ち止まって考えるところだが、もうそういうのはやめることにした。


 見捨てるにしても助けるにしてもやりたいようにやるし、楽しく生きなきゃな。


 中に入るとそれなりに怒号と喧騒が聞こえる。

 冒険者ギルドの朝は依頼の取り合いでそれじたいは珍しくない、掴みあいになり仲裁に入り危ない目にも何度かあっている。


 ただそれはもっと朝早くで終わり、11時付近ともなるともう冒険者は出掛けていくのでギルドは落ち着く。

 そこにギルマスが出勤して朝の報告を受けるのが普段の職場だった。


 その朝の業務まで色々と遅れと不具合が出てきているらしい。喧騒の中、目立たないように2階へと上がっていく。格好は職員のときのものだ。


 部屋をノックし入るとそこにはブライアンだけだった。


「失礼しますっと、副ギルドマスターは?」


 初日の夕方に出くわして以来噂でしか聞かないマイヤーは来ていないようだ。


 妨害行為は「強制証文」によってできないので二人ともいるかな?なんて思ってたがまあ別に一人でも問題はないか。


 珍しく俺が来るまでに書類とにらめっこをしていたのか顔を上げてブライアンが答える

 

「彼なら外回りだ。やれやれ問題続きでね、まあかけたまえ。」


 席に着くとブライアンの愚痴が続く。


「一昨日ユーリーが乗り込んできたよ。マイヤーの奴、取引先に一度も顔も出さずに君に任せきりだったんだね。そんなことすら私は知らなかったんだな、、。」


 一度は俺と一緒に挨拶には行っている、ただ一度で取引先に顔を覚えてもらおうだなんて虫が良すぎる話だ。

 

 それと知らなかっというが業務報告見ればわかることなんだからそれはただのあなたの怠慢ね。


 まあ、勿論奴に任せられないと一人で抱え続けた俺にも責任はあるが今、こうなってるのはそんな状態で試験と言い出して平気だと思ってたマイヤーの責任だ。


「歳が一周り以上離れているからね、息子くらいの気持ちで甘やかしていたんだろうな、いや甘えていたのは私も同じか。

 君が離れて色々と支障が出てきて私も久方ぶりに受け付けの後ろでフォローしようと思ったらアイル君に『ギルドマスター、邪魔です!』

          って言われてしまったよ。」


 ちなみにだがこのアイルさんはブライアンの愛人との噂がある。確かめてはいないが会談などで秘書代わりに連れて行くよ、だなんて二人で抜け出していたので黒だと思っている。


 その彼女にこれだけ言われたらキツイよな〜、まあ60歳にもなって受付嬢に手を出してるトップに同情なんてしてやる気はないが。


「なあ、妨害なんて勿論しないが君だってこの5日で少しは現実が見えたんじゃないのか?

 マイヤーが言っていたよ、初心者の森から足取り重く帰って来てたって。多少のレベルアップくらいではそこから現状は変わらないぞ。

 なあ、戻ってきてはくれないか?約束は覆せないが契約履行の後に私が一時金などを出すのは問題ないだろう、私達だってもう懲りた。君にだけ仕事を押し付けるようなことはもうしないと誓うよ。」


 本音も勿論多分にあるんだろうが長年の付き合いからいうと信用ならね〜がこっちの本音。

 後、大物ぶってわかったようなことおっしゃってるが的がズレてるぜ、元Aランク冒険者様。


「まあ、いいんじゃないですか?

 半年後には本部へ行くんですよね?いつもの会議は俺の資料で乗り切っていたようですけど内務は何にもわかりませんじゃ向こうにいっても恥かくだけですよ。

 後半年、いい汗かいてください。

 それより魔石の売買と5日後にはEランクダンジョンを攻略してからここにきますので入るDランクダンジョンの指定とそのときには渡せるように特別許可証の準備、お願いしますね。」


 

 こちらの啖呵に面を食らってしまったブライアンを急かし、やることが終わればそのままリベンジへと向かった。

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