第58話 懸念
セリルさんからの快い返事をいただいてから、数日が経った。その間に多くの課題、引き継ぎがあったが、一つ一つこなしていった。
セリルさんについては何の問題もないレベルだった。受付嬢達の自覚が出てきたのか、後ろ任せな書類が少なくなり、負担も減っていった。
やっぱり、俺が舐められてただけなんだろうな、トホホ。
マイヤーも、取引先との関係の再構築を頑張っていた。元々は貴族の社交界の経験もある男なので一度頭を下げ直して、取り組めば何とかなるものだ。
一番の懸念だった武器屋のホッカさんの所だが、二人で頭を下げ、相手にされなくても食い下がるマイヤーを見て、ひとまずは様子を見てくれるようだ。
ただ、俺の方はというと約束通り試験のことを話したが、それ以来ろくに会話をしていない。
お弟子さんがいうには怒ってるとかではないらしいが、どう接するか決めあぐねてるのだろう。
手先以外は不器用な人だからな。
他にも俺の仕事の振り分けは残っている。
行商人の件は仕事としてではなく、別途対策を検討中。解体素材の在庫管理だが、これをセリルさんにやらせるわけにはいかない。
今の解体士は俺が入ってから二代目だが、先代の教えしか言うことを聞かず、上手く関係を築けていなかったが、時間ができたので俺から歩み寄ってみた。
解体を教えて貰い、そこから一日、二日と「解体」のスキルブックを使って腕で認めさせるという、かなりインチキくさい作戦に出てみた。
これが案外上手くいき、そこからこちらのお願いも聞いてもらえるようになった。解体倉庫と酒場の厨房の在庫を上手く連携すれば馬鹿にならない利益になる。
俺が入った当初は両方別々で管理して、それぞれで廃棄を大量に出して赤字に繋がっていたのを改革していったのだ。
酒場の方は領主の専属料理人のグレイルに俺が頭を下げて、発注業務も任せられる人員確保に乗り出した。
恩を感じていたグレイルは二つ返事で了承してくれ、下積み段階から実地訓練への移行の段階の人間の研修という名目で、領主に提案してくれた。
領主の方にはブライアンも赴き、結婚披露宴をギルドを上げて手伝ったのも功を奏して、上手く話をつけてくれた。
そういう意味ではマイヤーの手柄でもある。
これでだいたいは目処が立った。あらためてこれだけ人数かかる仕事を一人でやってたんだな、俺。
残る俺の懸念は、ホッカさんは個人的なので置いておくとして、やはりララのことだ。
今後どうなるかはわからないが、取り敢えずはギルドも落ち着いてきたし、休暇一ヶ月はいいとしても職場復帰をするのなら、俺の引き継ぎ期間に一度は会っておきたい。
それに、差し出がましいがブライアンにまだ彼女がギルドにいられるようにお願いしておこうと思う。
ブライアンが出勤してきた段階でギルド長室へ入ると、上役二人が難しい顔をしていた。
それでも話は通しておこうと
「ギルドマスター、ララさんの件なんですが休暇中申し訳ありませんが、引き継ぎをしたいこともあるので一日だけでも出勤させることはできますか?」
と聞いてみると、
「いや、うん。そのことなんだがね、本当は話してはいけないのだが、彼女から君の名前が出たのでね。どこまで聞いているのかわからないが」
っと、何とも歯切れの悪い言葉が出てきた。
嫌な予感がするので話を促すと
「彼女は実は伯爵家の人間でね。
すでに公爵家の男性との婚約が内々に決まっていて、それまで外にいたいということで私が預かっていたんだが、今朝方に彼女の家の人達がやってきてね」
なっ、そのまま連れてかれたって意味か、今の言葉はっ。
「急にどうして? 彼女はそのままついていったんですか!? 彼女がその話を嫌がってるのは知ってたんでしょ、だったらなんで!」
思わず、声を上げてしまった。
「落ち着いてくれたまえ、君たちがそういう関係とは知らなかったんだ。
急に見えるかもしれないが、以前から公爵家からは嫁ぎを急かされてたみたいでね。私が預かれなくなるかもしれないと伝えると『もう十分だろう』と。
それに公爵家が相手では、私やマイヤーでもどうすることもできない」
大袈裟に首を振るブライアン。ゲスな勘繰り入れやがって、そういう話じゃないだろうがっ!
ブライアンは続ける。
「彼女から言付けと預かりものだ。
『優しい
言葉と共に、指輪を入れるような小さな宝石箱を渡される。
中には渡していた記念の魔石が入っていた。
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次話で2章ラストの予定です。
締めは中々難航していますが何とかまとめたいと思っています。
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