第74話 突破口

 エレイシアの言葉にいつの間にか爪が突き刺さるほど固く握りこぶしを作っていた。

 衝動的にエレイシアを責めたくなるが、それは違うだろう。彼女達も他に選択肢がなく苦渋の決断なのだから。


 何せ、天秤にかけられているのは伯爵領まるごと一つの命運だ、あまりにも重すぎる。だが、諦めるなんてそれこそ選択肢にはない。

 どこかに突破口はないか、さらに詳しく聞く。


「あなたがいる今のうちに彼女を逃がすことはできるが、そうすれば伯爵家の責任となり、それは彼女が望まない。

 では彼女が公爵家に嫁いでから公爵家への賊を装って彼女を逃がすことはどうです?

 難易度は上がりますが、私達が協力すれば不可能ではないんじゃありませんか」


 エレイシアが侍女としてついていけるのなら、それなりに成功率はありそうだが、現状かなりの強行策だ。

 しかし、王都の貴族たちに何のコネもない俺が、これほど両家に意味のある婚儀を裏工作でなしにするのも現実離れしている。

 

 無理にでもエレイシアを説得さえできれば公爵家に嫁いでからなら日数も稼げ、スキルを潤沢に取得しておいてからの強行策なら成功率も上げれるだろう。


 ララのその後のことを考えれば強行策など取りたくはないが、公爵家で待ち受ける日々が地獄というのなら躊躇う場合ではない。


「不可能だ、ヴァイアージ家は『軍事』の大家だ。

 当然警備は厳重で、衛兵も強い。何より、今から四十日後にある、公爵家主催の婚約発表のパーティーの後では例えララ様を連れ出せてもそれは生き地獄でしかないだろう。

 『貞淑の契り』という魔道具を知っているか?」


『貞淑の契り』―ユーリーの無駄話に付き合わされたときに聞いたことがある。

 貴族の大家が令嬢を貰うときに使う、婚約指輪ならぬ一生つきまとう奴隷の鎖。

 嫁ぎ先に操を立てる誓いとともに嵌めると呪いとなり、その誓い破るときは場合によっては命を落とすほどの負荷がかかるという。


 ユーリーは王宮にいた頃に、この魔道具の作成依頼を蹴って王宮を飛び出したなんて豪語していたが、まさかそんなものまで持ち出すのかヴァイアージ家は。


 婚約発表まで後四十日か、遂に日取りも決まってしまったらしい。その前に連れ出すこともその後に連れ出すことも実質不可能。


 そうなれば俺にできることといえば、後四十日の間に出来得る限りヴァイアージ家の対抗勢力に接触して、裏金でも何でも渡して婚約を帳消しにできる動きを作る程度か。


 ―それもとてもじゃないが意味がないだろう、時間が足りなさすぎる。


 結局俺には不可能なのか、目の前でまだへたり込んだままの彼女のように絶望がよぎるなか、ふと今までの情報が頭の中で繋がっていく。


 待てよ……… 、ブツブツと考え込む俺に


「なんだ、絶望のあまり気でも触れたか?

 それで、話の始めのお前の言い分とやらはどうした? そもそも、こんな話を聞いて、お前はララ様の一体なんだというんだ」


 エレイシアが問う。それに


「職場の先輩だよ。いいか、『職場の先輩』っていうのは困ってる後輩は助けるものなんだよ」


 力強く明確に、そう社畜オレらしく答えた。


 まだ完璧ではないが、確かにこの絶望の中、突破口は見つけた。なら後は虚仮威しでも自信満々に見せて、彼女を説き伏せるだけ。


「『約束』したんだ、助けにいくと。そして自分に誓ったんだ、その『約束』は曲げないって。

 君は違うのかい? 彼女の騎士としての忠義の誓いがあるというのなら、力を貸してほしい」


「いい加減にしろ!! そうやってララ様にも甘い期待だけ持たせたのだろうが、それがどれだけ残酷なことかわかっているのか!

  私一人を打ち負かした程度で何を履き違えているっ。もう、私達に関わらないでくr」



 「雷嵐サンダーストーム


 絶望の言霊を最後まで言わせず、辺り一面に雷魔法の範囲攻撃を放つ。


 もう完全に日が暮れて、練武場には自分達しか残っていない、デモンストレーションは派手なほうがいいだろう。


「ッッッ!!」


 練武場に降りそそぐ雷に驚き声も出せず、見上げるエレイシア。


「何もあなたを打ち負かしたことが私の実力の全てとは言っていないですよ。

 あなたにはこれから協力してほしいですからね、こんなものは向けられないですよ。さあ立ってください、上級回復魔法ハイヒール


 エレイシアに近づき、「僧侶」のジョブスキルレベル4の単体上級回復魔法を使い、傷を癒す。


 もう何が目の前で起こっているかわからないほど混乱するエレイシア、よしこの混乱の機に乗じる!


「今起こしたこの雷は彼女を救うこの戦いの反撃の狼煙です。今、あなたの中で少しでも『希望』が湧いたのなら、他に必要なのは忠義の心だけです。

 彼女を救うためにはあなたの力が必要だ。どうか私の手をとってください」



 自らの力をさらけ出し、協力を請う。

 さあ、ここからだ




―――――――――――――――――――――――――――――――――

 いかがだったでしょうか?


 3章もやっとこさ盛り上がってきたぞっという思いで執筆していますがその思いが皆様と共有できていれば幸いです。


 もし同じ思いの方がいらっしゃればどうか作品のフォローと★★★とレビューをいただけたら幸いです(_ _;)


 更新次第ではありますが引き続き次話をお楽しみください。




 

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