第120話

「つまりは、持っているのですね?」


 アリスが春日翔に詰め寄る。


「あ、えーと…」


 春日翔はアリスに凄まれシドロモドロになる。友情は確かめ合ったが、アイツだけノーダメージは釈然としない。もっと困りやがれ!


「ショウ、私は別に持っていることを責めているのではありません」


「そ、そうか」


 春日翔がホッとしたように緊張を解いた。なんだ、もうお許しが出てしまったのか…ツマラン。


「そういう時は、私に声をかけてくだされば良いのです。私はずっと待っているのですから!」


 突然の衝撃発言に、ボクたちは「え?」となった。


「ア、アリス、オマエ急に何を…!」


「急ではありません!何度もアプローチをかけているのですよ!」


「え…嘘?」


「私は絶対に、ハルカに劣ってなどいない筈です」


 アリスが春日翔の右手を両手で握りしめた。


「な、何で急に春香ちゃんが…?」


「気付いてないとお思いですか?」


 アリスの真っ直ぐな視線に射抜かれ、春日翔は焦ったような表情になった。


「ま、前!前の話だ!今の俺はもう、アリスの事を…」


 言いながら春日翔の頬が真っ赤に染まる。そんな春日翔の態度を受けて、釣られてアリスも顔中耳まで真っ赤になった。


「そ、そうなのですね…。すみません、はしたない真似をしてしまって…」


 しかしその発言は、同時にボクにとっても青天の霹靂だった。


「え…?翔とハルカって、もしかして…?」


 顔から血の気が引くのが分かった。恐る恐るハルカの表情を確認する。


「ちょっとケータ、変な誤解しないでよね!全くコレっぽっちも何にもないから!」


 ハルカが右手の親指と人差し指で隙間を作る。…いや、既にくっついてる。


「ホントに?」


「なんで疑うのよ!私のどこにそんな要素があったってのよ!」


 ハルカが顔を真っ赤にして怒鳴りちらす。


「そ、そうか、良かった…」


「そうよ!勘弁してよね、全く」


「ケータくん、夢が叶ったってどういう意味?」


 不意に背後から声をかけられ、ボクは咄嗟に振り返った。そこにはモジモジしたサトコとニコニコ顔のルーが並んで立っていた。


「あ、いや…えーと…」


 クソー、そういや忘れてた。コッチは既にバラされた後なんだった。ダラダラと流れる冷や汗が止まらない。


 するとサトコとルーが、ボクの両傍に「タタッ」と駆け寄ってきた。


「ケータくん…、勉強のコトしか知らない委員長に、もっと色んなコト教えてよ?」


 サトコがボクの右腕に組みついて、真っ赤な顔で、その豊満なお胸を押し付けてきた。


「ケータお兄ちゃん、ルーの知らないオトナのお勉強、たっくさん教えてほしーな!」


 ルーもボクの左手を両手で「ギュッ」と握りしめ、火照った顔で上目遣いに見上げてきた。


 コレもう意味バレてる…。ボクは口から魂が飛び出る感覚に襲われた。好きな娘に性癖がバレるなんて、地獄の中の天国か!


「ちょ…ちょっとアンタたち、調子に乗るな!」


 ハルカが焦ったように、ふたりからボクを奪い取った。そんなハルカをふたりが「クスクス」と笑う。


「無理しなくていいのよハルカ。妹さんには荷が重いでしょう?」

「この件に関しては私たちに任せてください、ハルカさん!」


 サトコとルーに見下され、ハルカの顔が一瞬で真っ赤に沸騰した。


「お気遣い結構です!だって私たち本当は…」


 ハルカがサトコとルーに向かって何かを言おうとした時、さっきのクレーターの底から「バシュー」と大量の影が噴き上がった。


 ボクたち全員その場で絶句し、その様子を只々眺めていた。


 どれ程の影が噴き上がっただろうか。時間にして1分か2分。ようやく影の噴出が収まった。何もないと信じたいが、さすがにそんな訳ないよな…


 そして期待どおりなのか期待ハズレなのか、事態は動いた。


「あー、よく死んだ」


 ここからではクレーターの底はよく見えないが、それは確かにベルの声だった。

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