第27話
「ファナさま!ケータお兄ちゃんたちに夕食をご馳走してもよろしいでしょうか?」
ルーがボクの腕を掴みながら提案した。
「ああ、構わない。ルーを助けてもらった礼だ。存分に振る舞うがいい」
「はいっ!」
ルーは頬を赤く染めながら、嬉しそうに笑った。
「君たちには客間を二部屋用意しよう。今晩は泊まっていってくれ」
ファナがボクたちに笑いかけた。
無一文には大変助かる提案だ。ボクは迷わず好意を受け取った。
「それじゃ、一先ず部屋に向かいましょ!」
ハルカがボクの腕に組みついてきた。
「え?」
「ちょっと、待ちなさい!」
戸惑うボクに被せるように、サトコが声を張り上げた。
「何でそうなるのよ!」
「だって…コレ以外にある?」
ハルカがニヤリと嗤った。
「まさかクラスメイトが同じ部屋に泊まるとか、あり得ないよね?」
「く……」
サトコが押し黙る。
あれ?本当にコレ以外にないのか?普通に男女に分かれたらいいんじゃないか?ボクがオカシイのか?
ボクは目がグルグル回って、考えがまとまらない。
「クク…、アーハッハッハーー」
突然ファナが笑いだした。
「君たち面白い!気に入った」
ボクたち3人は、呆気にとられてファナを見た。
「来客があるのを忘れていたよ。客間は使えない」
「ええ?」
嘘だ、せっかくの無料宿泊が…。ボクはガックリ落ち込んだ。
「小さいが、今は使っていない離れが一軒ある。そこを自由に使うといい」
「ほ、本当ですか?」
続いたファナの言葉にボクは目を輝かせて反応した。
「ああ、君たちが望むなら、いつまでも居てくれて構わない」
「おお、ありがとうございます!」
ボクは何度もファナに頭を下げた。
「やった!」
サトコは小さくガッツポーズをしている。
「まあ別に、私はどっちでも…」
ハルカはやや不服そうな表情をしていたが、それでもやっぱり嬉しそうだった。
「ケータ殿、存分に愉しむがいい」
ファナがボクに、どこか悪戯っ子のような笑顔を見せた。
「は、はあ」
ボクは意味を図りあぐねて、曖昧に返事をした。
「あの、ファナさま」
ルーが少し躊躇いがちにファナを呼んだ。
「あの、その…私…」
ルーは顔を伏せてモジモジしていた。
「ああ、そうか。行きたい場所が出来たのだな」
ファナが笑った。
「私は本当にファナさまに感謝しています。だけど…!」
「ああ、分かっている。例えルーが何処にいても、私とルーの関係が壊れること決してない。安心してお仕えするがいい」
「は、はい!ありがとうございます」
その時、部屋の扉が勢いよく開き、4人の子どもたちが倒れ込んできた。しかし直ぐさま立ち上がり、全員がルーに群がっていく。
「おめでとう!」
「おめでとう、ルー」
「皆んな、ありがとう」
5人の子どもたちは、涙を流しながら抱き合っている。ボクたちは完全に取り残された。
「ケータ殿、ルーは風の精霊に好かれている。家事も含めて、何でも卒なくこなすだろう。きっと君たちの力になる筈だ」
ファナが優しい瞳でルーのことを見つめていた。
コレって、ルーをボクらが引き取る流れなんだろうな…。ボクはハルカとサトコの顔を見た。ふたりもお手上げ状態で作り笑いをしている。
この流れに「否」を唱えられる「勇者」は、ボクらの中には居なかった。
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