第26話
ボクたちはルーに案内され「ファナ」さまの屋敷に到着した。だいたい敷地の中心に位置し、周りの建物よりは少々豪華な造りになっていた。
「ルー、無事だったのね」
「心配したよ!」
玄関に入ると、4人の少年少女(男2女2)に突然囲まれた。だいたいルーと同じ年頃の子どもたちだ。
「心配かけて、ごめんね。ファナさまは?」
ルーは皆んなに揉みくちゃにされながら、ファナの居場所を尋ねた。
「いるよ、いつもの書斎」
「分かった。私は報告があるから、また後でね」
ルーは皆んなに手を振ると、ボクらのところに戻ってきた。
「仲が良いんだな」
ボクは微笑ましい光景に嬉しくなった。
「うん!血は繋がってないけど、皆んな大切な家族なんだ」
ルーが余りにあっけらかんと言うから、ボクは言葉の意味が理解出来なかった。
「え…どういう意味?」
「私たち皆んな、路頭に迷って絶望していたところをファナさまに救われたの」
「それって…」
ハルカが口元を押さえた。サトコも黙って口をつぐんでいる。
「ごめん、ルー…」
ボクは深く頭を下げた。
「やめてよ、ケータお兄ちゃん!もう全然平気だから。ファナさまにここに連れてきてもらって、家族も出来て、今はホントに幸せなんだから」
ルーは満面の笑顔を見せた。
「あ、でも、ハルカさんだけはこれからも気を遣ってくれていいですよ」
ルーは口元に手を当てて「ニシシ」と笑いながら、ハルカを見た。
「……コイツ、可愛くない」
ハルカが「フン」とソッポを向いた。
~~~
大きな重量感のある扉をルーがノックすると、中から「入れ」と声が聞こえた。
「失礼します」
ルーが全身を使って扉を中に押し開く。
「ルー、ルーか!心配したんだぞ」
部屋の奥の机で何やら事務作業をしていた30歳前後の女性が、ルーの姿を見て立ち上がった。
赤い髪をポニーテールでまとめ上げ、毛先は首筋にまで届いている。服装は黒いレディーススーツのような格好をしていた。そして、同じく赤い瞳の切れ長の目には安堵の色が宿っていた。
「ただいま戻りました、ファナさま」
ルーはペコリとお辞儀をした。
どうやらルーは、ファナから任務を受けていたようだ。
王都から火竜の討伐隊が出立したと情報が入ったので、その動向についての調査である。戦いの結果如何によっては、こちらの領地にも被害が及ぶ可能性があるからだ。
しかし、ルーたちの部隊が戦場に到着したときには、火竜の姿は既に無かった。火竜のブレスによって焼けただれた大地や、クレーターのように大きく陥没した地面から激闘の痕跡だけが確認出来た、とのことだった。
しかし、その帰路の途中で「オーガ」率いる「オーク」の群れに遭遇してしまった。ルーたちは充分な健闘をみせたが「オーガ」には及ばず、そこでボクたちと出会ったということらしい。
帰還予定を過ぎても戻ってこないルーたちを、領地の仲間たちは心配しながら待っていたのだ。
ボクたち3人は顔を見合わせて苦笑いした。話すとなんだか面倒なことになる予感がした。
「ケータ殿、だったな」
ファナがボクのそばに歩いてきた。
「は、はい」
「家の者を救っていただき感謝する。本当にありがとう」
言いながらファナは、ボクに握手を求めてきた。ボクは求めに応じながら、慣れない状況に赤面して俯いた。
「しかし『オーガ』をたったこれだけの人数で倒してしまうとか、驚きを通り越して感服するよ。恐れ入った」
ボクはファナの真剣な瞳に愛想笑いを返した。
勇者だとバレないように、あまり目立ちたくはなかったのだが、結局やらかしてしまった。
やっぱり「オーガ」は、雑魚なんかじゃなかったんだ!
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