第28話
夕食は、ルーたち5人の子どもが作ってくれるらしい。と言うか、この屋敷の家事全般が子どもたちに与えられた仕事のようだ。
ボクたちは応接室に通され、そこで支度が済むまで待つことになった。
「ったく、なんであの子がついて来ることになるのよ!」
ハルカがプリプリしている。なんでこんなに仲が悪いんだか…
「家一軒の対価と考えたら、安いモノだよ」
無一文のボクたちには、大変助かる話だ。
「とても断れる状況ではなかったけど、それでもケータくんは楽観視しすぎよ!」
なんだかサトコも、ちょっとご立腹のようだ。一体どうしたというのだ?
「なんだよ、ふたりとも。ボクにはルーがそんなに悪い子には見えないけど…」
「確かにルーは『悪い子』じゃないわ。でもね、それとは別問題!」
ハルカが吠えた。
「そうよ、別問題!」
サトコも声を張り上げた。
「な、なんだよ…、別問題って?」
ボクはふたりの少女に凄まれ後退りする。すると、ふたり同時に「はあー」と溜め息をつかれた。
しかしお互いの「溜め息」を聞きつけたふたりは、瞬時に体を向け合い臨戦態勢に入る。
「愛想をつかせたのならどうぞご自由に、サトコ」
「ハルカこそ、大きな溜め息。無理に頑張らなくても、後のことは私に任せて!」
なんだか一触即発の緊張状態。ボクはどうしたらいいのか分からずにオロオロした。
その時、ノックの音がしたと思ったら扉がガチャリと開いた。
「夕食の用意が出来たよー」
現れたルーの姿が、ボクにはまるで天使の姿に見えた。
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夕食は5人の子どもたちも交えて賑やかなものだった。晩餐会のような豪華な料理という訳ではなかったが、見た目の綺麗な料理が並んでいる。しかも、どれも美味しい。店で出しても恥ずかしくないレベルだ。
「どうですか?お口に合いますか?」
その時、5人組のひとりの女の子がボクの横に近よってきた。茶色のポニーテールを赤いリボンで結んだ活発そうな女の子だ。たしか名は「リンス」といったかな。
「どれも美味しくて、ビックリしたよ!」
「そうですか!とても嬉しいです」
ボクが正直に感想を伝えると、リンスは満足そうに微笑んだ。
「コレはもう、お食べになりましたか?」
リンスが手に持っていたお皿を差し出した。その料理は、ボクの知識では「肉じゃが」に似ていた。そういえば、コレはまだ食べてなかったな。ボクはパクッと一口食べた。
「こ、これ美味しい!ボクの好きな味だ!」
ボクはリンスからお皿を受け取ると、次々と口に入れた。
「そうですか!お気に召しましたか!」
リンスは興奮したように喜んだ。
「それ…ルーが作ったヤツ…」
「おい、やったな!ルー」
ボクの向かいに座っていた、双子の姉弟の「レン」と「ロン」が口を挟んだ。水色のショートヘアの同じ髪型をしている。
「なにっ!」
「え…?」
子どもたちの言葉に反応したのは、何故かハルカとサトコだった。しかもハルカに関しては、驚いたようにガタンと席から立ち上がっている。
ルーは対角線の位置に座っていたが、恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「おい、何か言えよ、ルー」
ルーの横に座っているボサボサ黒髪の「ライ」が肘で小突く。
「ま、毎日、頑張ってご飯作るね」
ボクの方に向けたルーの顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
「ルーひとりに任せたりしないから、安心して」
サトコがルーに優しく微笑みかけた。しかし、テーブルの下で握りしめた拳が震えているのが、ボクの位置からは見えた。
「そ、そうよ!私たちもいるから大丈夫!」
ハルカもテーブルに両手をついて身を乗り出して言う。
「とても心強いです。若輩者なので、おふたりに勉強させていただきます」
ルーがニッコリ笑った。
しかし、ハルカのヤツは、いつも弁当は作ってくれてたけど、手の込んだ料理をしているところは見たことがない気がする。気のせいかな?
「やはり君たちは面白い」
お誕生日席(?)に座っていたファナが、ボクらを見回しながら「ククッ」と笑っていた。
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