第29話
ボクたちは夕食後、例の離れの様子を見に行った。ルーは後片付けやら何やら残っているということで屋敷に残った。
離れは確かに小ぢんまりとした家だった。話によると、以前は屋敷に仕えていた老夫婦が住んでいたらしい。しかし寄る年波と、ルーたちが機能しだしたのとが相まって、引退を決意し田舎に帰ったとのことだった。
家具は一式揃っているらしいのだが、よく考えたら日用品が何もない。
ボクたちは中には入らずに、街に出ることにした。まずは獲得した戦利品を売却することからだ。
人に道を尋ねながら、一軒の買取屋にたどり着く。
「コレ、買い取ってもらえますか?」
ハルカはスマホから「魔核」を取り出し、店番の男性に差し出した。
「こ、これは、中型魔核!」
男は驚いてボクたちの顔を見た。
「そ、そうか!アンタらがオーガからルーを助けてくれた人たちか」
「何で知ってるの?」
ハルカが目を見開いた。
「お屋敷の子どもたちは、ワシらにとっても家族みたいなもんだ。皆んなルーを心配しとった。アンタら本当にありがとう」
男が深く頭を下げた。
「あ、あの、もう充分ですから…」
いつまでも頭を上げない男に、ハルカはあたふたしながら応えた。
「あ、えーと、売りたいモノがもう一つあるんだけど、ちょっと大きくて…」
ハルカが強引に話題を戻した。
「おおそうか、なら裏手から外に出ようか」
顔を上げた男に連れられて、ボクたちは裏口から外に出た。そこでハルカがスマホから「灰鬼の棍棒」を取り出した。
「今の収納魔法かい!」
男が目を輝かせた。
「その魔法は高等魔法だから、使えるヤツが羨ましい!」
「そ、そうですか…」
ハルカは愛想笑いをした。どうやら勇者の「普通」は世間の「普通」とは違うようだ。気をつけないとな。
「しかし、コレは…」
男が棍棒をマジマジと見つめた。
「オーガの棍棒かい?こんなの初めて持ち込まれたよ」
男は隅々まで棍棒を鑑定していく。
「素材も状態もいい。魔核と合わせて30万リング(1リング1円、物価も日本並)でどうだ?」
ボクらは顔を見合わせた。
「う、売った!」
~~~
ボクたちは最優先で必要な日用品を買い集め、家に戻った。中は小振りながらも、一階はリビング、ダイニング、キッチンが揃っている。シャワーとトイレも完備しており、どういう原理かお湯も出る。
二階は広めの一部屋とウォークインクローゼット。ベッドが置いてあったため、寝室に利用されていたようだ。
しかしここで問題が発生した。
ダブルベッドが一つしかないのだ。そこで初めて、ボクはさっきのファナの言葉を理解した。
「あの人、本気で愉しんでやがる…」
ボクは頭を抱えた。
「こんなの、もう決まってるでしょ!」
ハルカがボクの腕にしがみつきながら、サトコに噛みついた。
「決まってない、全然決まってない!」
サトコも僕のブレザーの裾を掴みながら食い下がっている。
なんで男女別にならないのか意味が分からないが、こんなのどっちと一緒でも眠れる訳がない。ボクは大きな賭けに出た。
「分かった!ちょっと狭いけど3人一緒に使おう」
「え?」
ハルカとサトコが、ボクを見上げてポカンとした。それからボボッと顔を赤らめる。
「ケータがそれでいいなら」
「うん、ケータくんがいいなら」
とりあえず争いが止んでくれて助かった。ボクは一安心した。
それからボクらは順にシャワーに入り、買ったばかりの部屋着に着替えて、今夜は寝ることにした。
「な、なんか変な感じだね」
「ま、まあ、とりあえずはこれで手を打つわよ」
ボクはふたりに挟まれて布団に入った。こんなの眠れる訳がない。ふたりが寝静まったら、コッソリ脱け出すとしよう。
~~~
……ータ!
………タくん!
ん?あれ、なんか呼ばれてる?
「ケータ!」
「ケータくん!」
ボクはソファの上でハッと目を覚ました。ああ、そうか。夜に移動したんだった。
「あれ、もう朝か?」
頭の上から覗き込んでくるハルカとサトコにボクは声をかけた。
「おはよう、ケータくん。確かに朝よ!」
「ケータ、これは一体どういうことよ!」
何故かふたりの口調が怖い。脱け出したことを怒っているのだろうか。
ボクは身体を起こそうとして異変に気付いた。身体が重い。ボクは自分の身体に視線を向けた。
「な…、ルー?」
ルーがボクの上で抱きつくようにして、うつ伏せで眠っていた。
「ふあー…」
そこでルーが目を覚ました。
「あ、ケータお兄ちゃん、おはよう」
え、ええええーーー!
ボクは文字通り飛び上がり、ルーから離れた。
同時にファナへの直談判を心に決めた。
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