第30話
ルーの話によると、朝食もご馳走してもらえるということなので、ボクたちは屋敷の食堂に集まった。ボクとしても、ファナにお願いしたいことがあったのでちょうどいい。
食堂に着くと、ファナの姿が既にあった。ボクは半ば突撃するかのように、ファナの席に急いだ。
「おはようございます、ファナさん」
「ああ、おはよう。ケータ殿」
ファナが余裕の笑顔でボクを見上げた。
「その様子だと、どうやら愉しんでもらえたようだな」
「!?」
そこで気付いた。朝食に招待されたのは、ボクのこの反応が見たかったからなんだと。どうやら相手のほうが一枚上手だ。
「その事でお願いがあります」
ボクは負けじと切り出した。
「二階の一部屋を壁で仕切って、二部屋に出来ないでしょうか?」
「ああ、なんだ、そんなこと?どんなお願いかと思ったよ」
ファナはお茶を飲みながら、優雅に笑った。
この余裕…。ボクのこの申し出もどうやら想定の範囲内だったようだ。逆に言えば、その準備も出来ている筈である。
「あれは皆の家だ。皆が賛成なら、いつでもやるが?」
「は?」
ファナはボクの後ろに立つハルカとサトコに目を向けながら言った。なんだ…?ボクの思ってた流れと違うぞ。
「は、反対」
「反対…です」
意見を求められたハルカとサトコが、小さく右手を挙げながら答えた。
「はい?」
ボクは後ろに振り返った。ハルカとサトコは、ボクの顔を見ないように視線を逸らす。
「あの…、私も反対です」
朝食の準備をしながら、ルーも手を挙げた。
「ええ?」
「と、いうことだ。ケータ殿」
ファナは愉しそうに笑った。どうやらここまでが、ファナの想定の範囲内だったようだ。ボクは完全に踊らされた。
「それにな、ケータ殿…」
ファナは、チョイチョイと手招きした。ボクは釣られて顔を寄せる。
「下手に個室を作るより、皆が一緒の方が間違いも起こりにくいと思うがな」
ファナがボクの耳元で囁くように言った。
「な…!」
ボクは仰け反って、絶句した。
「ああ、それとも、ケータ殿はそういうのがお好みか?」
「な…、な…」
ボクは一気に顔が真っ赤になった。
「とはいえ、アレでは確かに手狭だろうから、ダブルベッドをもう一つ用意させよう。それでいかがかな?」
「あーもー、それでいいです…」
ボクは肩を落として諦めた。
~~~
朝食後、頼みたいことがあるとかで、ボクたち3人はファナの書斎に招かれた。
「オーガを倒したケータ殿に、折り入って頼みがある」
ファナの表情は、先程とは違い真剣そのものだ。
「ここから少し北に行ったところに、森に囲まれた綺麗な湖がある」
言いながらファナは、机の上に地図を広げる。それからここと、ボーダー連峰のちょうど中間あたりにある「キレーナレイク」と表示された場所を指差した。
「長期戦や遠征をするときに拠点として利用していたのだが、最近一匹の魔物に占拠されてしまって困っている」
「倒さないんですか?」
そんなボクの一言に、ファナは困った表情を見せた。
「恐らく、大型魔核レベル。討伐となると近隣領主や王都に援軍の要請が必要になるだろう」
「すればいいじゃない」
ハルカが不思議そうな顔をした。
「そうなのだがな、ヤツはそこを占拠したきり、一歩も動かないのだ。我々は困っているのだが、緊急性という意味では優先度が低い」
「それで私たちに…ですか」
サトコが不安そうな顔をした。
「無理をしてほしい訳ではない。我々も何度か試してみたのだが、凄まじい強さでな。あくまで、あわよくば、だ」
「無理そうなら、逃げ帰ってもいいてことですよね?」
ボクは再度ファナに確認した。
「ああ、そうだ。決して無理はするな」
「分かりました。やってみます」
ファナには随分と面倒を見てもらったので、無下には断れない。
もしかすると、オーガを倒したボクらが現れてからここまでの全てが、ファナの思惑通りだったのかもしれないな。
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