第112話 番外編 17

 翌朝


 ファナが食堂で朝食を摂っていると、入り口の扉が「キィー」と開いた。


「ファナさま、客人…」


 レンが顔だけ覗かせてファナに声をかける。


「客人?」


 ファナは首を傾げた。こんな早くに一体誰だ?


 すると「バン」と扉が大きく開き、ショウが姿を現した。


「聖騎士殿?」


 ファナは驚いて席から立ち上がった。それから「はぁー」と溜め息をつく。


「随分とお早いお着きですね」


「ごめんなさい。ショウがあまりに急かすので…」


 続いてアリスが姿を現す。


「姫さままで来られたのですか?」


「ショウが行くのなら、当然です」


 アリスが胸を張って答える。


「当然って…」


 ショウは確かに姫の従者なのだろうが、これではどちらが従者だか分からない。


「旨そうだな」


 ショウが無表情でボソリと言った。


「……お食べになりますか?」


「頼む」


 ショウの返事と同時にレンとロンが二人分の席を後ろに引き、アリスとショウを座席に案内した。


 続いてライとリンスが料理を運んできた。パンとスープとサラダという至って普通の朝食だが、パンから「フワッ」といい匂いがする。焼きたてなのかもしれない。


「とても手際が良いですね、感心しました」


 アリスの賛辞を受け、4人の子どもたちは「エヘヘ」と照れ笑いした。


   ~~~


「調査書は、まだ私の元にも上がってきておりませんが…」


 ファナは食後のお茶を飲みながら先手を打った。


「問題ない。気長に待つさ」


 ショウもお茶に口を付けながら、大したことないように応えた。


「そういえば、少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


 アリスが思い出したかのように「パン」と手を叩いた。何ともワザとらしい。


(正直、よろしくない…)


 ファナは内心呟いたが、拒否する訳にはいかない。


「何でしょうか?」


「昨日も聞きましたが、隠密勇者を捕まえた方を紹介してほしいのです」


「どういうことですか?あれはシシーオ家の衛兵が…」


「表向きはな」


 ファナの言葉をショウが遮った。


「表向き?」


 ファナの表情が厳しくなる。


「では、質問を変えましょう」


 アリスがにこやかに微笑んだ。


「ここの衛兵に『獣魔使い』の女性がいてますよね?」


「え、ええ」


 ファナは警戒しながら頷いた。この件は既に周知の事実、否定出来ない。


「眼鏡はかけてるか?」


「眼鏡?」


 ショウの質問の意図が掴めずに、ファナは首を傾げる。


「ええ、そうですね」


「そうか」


 ショウは頷いた。


「会わせてくれ」


「え?」


 ファナは仰天した。とても不味いことになった。


「な、何故?」


「ソイツが隠密勇者を捕まえたヤツだからだ」


「いいい今はダメです。別の任務で遠出をしておりましてっっ」


 ファナは目がグルグルと渦巻き状になった。


「ああ、いけません!」


 そのとき扉の向こうで、リンスの焦った声が聞こえてきた。同時に扉が勢いよく開き、真っ白なローブを着た黒髪セミロングの少女が飛び込んできた。


「ファナさん、ケータが大変なの!お願い、馬車を貸して!」

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