第九章 合流!

第113話

「ごめん、ファナさんいてる?」


 私はファナさんの屋敷に乗り込むと、出てきたリンスにいきなり声をかけた。


「食堂におられますが只今来客中でして、お会い出来るか確認してきます」


「ホントごめん。コッチも緊急事態なの!」


 私はリンスを押し退けると、玄関から正面奥にある食堂に向けて駆け出した。


「ハルカさん、怒られますって!」


 リンスが追いかけてくるが、追いつかれる訳がない。私ホントは体育も得意なんだから!


 それから私が食堂の扉に手をかけたとき、リンスが一際大きな声を出した。


「ああ、いけません!」


 しかしその声すらも振り切って、私は食堂に飛び込んだ。


「ファナさん、ケータが大変なの!お願い、馬車を貸して!」


「え?」


 中にいた人たちが一斉に私の方を見て物凄い顔をした。ファナさんの他にひと組みの男女がいる。


 アレ?なんだか見たことあるような人たちだな…


「もーハルカ、足早い……よ?」


 ちょっと遅れて、サトコも食堂に入ってくる。それから誰も言葉を発しない、室内の異様な空気に気付いたみたい。


「は、春香…ちゃん?」


 黒縁眼鏡の少年が、震える手で私を指差す。


 走って乱れた呼吸が落ち着いてくると、私の思考も正常に戻ってきた。黒縁眼鏡の少年と銀髪ボブヘアーの少女…見た事あるなんてレベルじゃない。私の顔から血の気が引いた。


「か、春日くん!?」


 サトコが私の替わりに声を張り上げた。やっぱり見間違いじゃないのかー…


「真中さんか?」


 春日翔もあんぐりと開いた口が塞がらない。


「一体どういう事か全く分かりませんが、皆さん一旦落ち着きましょう」


 このままでは事態が収束しないと悟ったアリスが、春日翔と私たちの間に割って入った。


 だけど今の私には、そんな悠長な時間はない!


「ごめん!後で全部話すから今は許して。ホントに時間がないの!」


「そういえば、恵太がどうこう言ってたな。アイツも無事なんだな?」


 私の必死の形相に春日翔の顔つきが変わる。


「そうだけど、今はそうじゃないの!連れ去られちゃったのよ!」


「誰に?」


「たぶん、敵の勇者…」


「勇者!?」


 春日翔が驚いた声を出した。そりゃ驚くよね、親友が敵に拐われたんだから…


「春香ちゃんたち…勇者と戦ったことあるのか?」


「え?」


 春日翔の質問に、私とサトコは顔を見合わせた。


「えっと、たぶん、3人目…」


 サトコが右手の指を3本立てて、おずおずと春日翔の方に手を向けた。


「3人!?」


 春日翔が素っ頓狂な声を出した。再び開いた口が塞がらない状態。せっかくの美形が台無しだよ?


「ファナさま!」


 そのとき血相を変えて、ライが食堂に飛び込んできた。


「領内に突然、魔物が出現した!」


「な…なんだと!?」


 ファナさんの顔色が一気に真っ青になった。


「ひ…被害は?」


「そばにいたルーがすぐに撃退したから、被害は出てない」


 ライの返事を聞いて、ファナさんは少し安堵の表情を見せた。


「一体、何処から…?」


「あの勇者の仕業なの」


「え?」


 私の言葉に皆んなの視線が集まる。


「アイツが端末で何か操作をしたら、突然魔物が出てきたの。きっと街道の魔物もアイツが呼び出したんだ」


「どうやら思ったよりも急いだ方がいいな」

「そうね、馬車なんて悠長なこと言ってられません」


 春日翔とアリスが顔を見合わせて頷く。それからアリスが私たちの方に向き直った。


「馬で行きましょう。その方が早い。当主さま、貸していただけませんか?」


「ああ、勿論構わない」


 ファナさんが頷く。しかし私とサトコは顔を見合わせると、焦って反論した。


「私たち、馬なんて乗れないよ!」


「大丈夫だ。俺とアリスで手分けして連れて行ってやる」


「春日さん、馬に乗れるの?」


「ああ、練習したからな」


 私の驚いた声に、春日翔が得意げに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る