第111話 番外編 16
「リンス、キミはお客さまをこの応接室に案内してくれ。私はお二人を書斎に連れて行く」
「分かりました」
リンスはファナに頭を下げると、部屋から退出していった。
「すまない、聞いてのとおりだ。急な来客が来たので、暫くの間、書斎の方で待ってていただけないだろうか?」
「ええ、構いません」
アリスの快い返事を受けて、ファナは二階にある自分の書斎に二人を案内した。
「くつろげるスペースも無く、大変申し訳ない。出来る限り手短に済ませますので…」
ファナはアリスに頭を下げた。
「あまりお気になさらずに。私たちはいくらでも待ちますから」
「はい。ありがとうございます」
ファナが再び頭を下げたとき、書斎の扉がノックされた。続いて扉の外から声が聞こえる。
「お客さまをお通ししました」
「分かった。すぐ行く」
ファナはアリスとショウに会釈をすると、扉を開けて外に出ていった。
~~~
ファナが書斎に戻ったのは、それから30分後のことだった。部屋に入るなり、アリスとショウに向けて頭を下げる。
「姫さま、聖騎士殿、申し訳ない。どうしても外せない用件が舞い込んでしまった。大変勝手ながら、今日のところはお引き取り願いたい」
「何か、あったのですね?」
アリスがファナから漂う空気を敏感に感じとった。
「南の街道に、把握外の魔物が現れました…」
「え?」
アリスの表情が一瞬で変わる。
「それで、どうなったのですか?」
「たまたま居合わせた我が衛兵が魔物の撃退は致しましたが、クマンの商隊がひとつ被害に合ってしまいました」
「そんな…」
アリスの顔から血の気がひいた。口元を押さえて、ワナワナと震える。
「見張りは何をしていた?」
ショウが厳しい表情をファナに向けた。
「すまない、聖騎士殿。全てこれから調査する。今は私も全く事情が分からないのだ」
「…そうだな、すまなかった」
ショウは頭を下げた。ファナにも今一報が入ったばかりなのだ、分かる訳がない。焦って気が動転していた。
「報告書を作成し、後日送付いたします。せっかくお越しいただいたのに本当に申し訳ない」
「そういう事なら、明日の朝もう一度出直そう」
ショウが含みのある笑顔をファナに向けた。
「ですが…そんな急に調査も完了しませんが?」
「調査の第一報で構わない。場合によっては街道に警戒体勢を敷かなければならない。そうなれば、王宮にもそれなりの準備が必要になる。報告は早い方がいい」
「それは、そうですが…」
「それに馬で書簡を届けるより、俺たちが直接持って帰る方が圧倒的に早い。例え夕方まで報告書を待ったとしてもな」
「……」
ファナは内心舌打ちした。聖騎士殿は是が非でもさっきの話の続きがしたいようだ。しかし緊急事態であることもまた事実。理由もなく断ることは出来ない。
「分かりました。こんな事に聖騎士殿を使うのは心苦しいですが、お言葉に甘えさせていただきます」
~~~
アリスとショウを見送ったあと、ファナは自席で盛大な溜め息を吐いた。
なんなんだ、この心労は?これは本当に領主の仕事なのか?いや、面倒事を「面白そう」という理由だけで抱え込んだのは確かに自分だが、これはあまりにも想定外だ。
いや、違うな…
ファナから「フフッ」と笑みが零れた。こんな状況だというのに、自分は確かに愉しんでいる。
「全く…やり甲斐がありすぎて困るくらいだ」
ファナは背中を「グッ」と反らして、ゆっくり大きく伸びをした。
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