第70話
一人目の壮年の衛兵が話し終えて台を降りると、同じくカーキ色の制服を着た40代くらいの女性の衛兵が、入れ替わりに台に登った。
どうもカーキ色のこの制服が、ここ複合領地の軍服なんだろうと思う。私たちの側に並んでいる衛兵にも、同じ制服の人がいてるし…
女性教官の話によると、初日の今日は教官との訓練アンド指導。明日は領地ごとに2~3人で隊を組み訓練生同士での実戦演習となるらしい。
つまり、初日の情報収集が明日の演習の肝になるってことよね。面白いじゃない。自分たちの情報を隠しながら、どれだけ相手の情報を掴み取るか…
特に私たちなんて完全にロックオンされてるんだから、下手したら、それぞれが持ち寄った情報で今晩作戦会議が開かれかねない…
やってやろーじゃないのよ!私だって三ッ星の勇者だ。そんじょそこらの衛兵に負けてやるつもりなんてサラサラない!
「最後に、教官と訓練生での見本演習を行う。明日の演習のイメージ作りに役立ててほしい」
女性教官がそう告げると、30代くらいの男性教官が二人、台の前に並んで立った。
「アインザーム、ハイライン、お願い出来るか?」
「仰せのままに」
アインザームが前髪をかき上げながら、優雅に返事する。憎たらしいことこの上ないが、皆んなの見本に選ばれちゃうあたり本当に強いんだろうな。
でもこれは、ケータにとってかなりのチャンスだ。相手の実力が前もって分かるんだから!
「後方の演習場に専用の空間を設置する。他の者は自由に待機していなさい」
女性教官の言葉とともに全員が回れ右して、ゾロゾロと移動を始める。自然と仲の良い者同士が集まっていく感じだ。
「皆さん、なんだか大変なことになってしまって、本当にすみません」
ユイナがコッチに駆け寄ってきた。この娘、ホントいい子。仲良くなれてスゴく嬉しい。
「いーのいーの、ユイナのせいじゃないから。全部あの
滲み出る怒りが隠しきれない。ユイナは私に圧されるように「ハハハ」と引きつった顔をした。
「ハイラインさんて、どんな人なの?」
サトコが不安そうにユイナに質問する。天才が一目置く男、さすがに気になるよね。
「そうですね…。ハイラインさんの魔法適性は、ハルカさんと同じ防護魔法です」
「ひとつだけ?」
私の口から思わず零れた。まあ、ひとつが普通らしいけど、なんだか拍子抜け…
「そうなんですけど…、あの人には『豪腕』というトンデモないスキルが備わってまして、大の大人が二人がかりでやっと運べるような巨大な武器を、一人で軽々と操るのです」
「うへっ?」
私は不覚にも、意味不明な声を出してしまった。ユイナの説明とほぼ同時に、ハイラインが持ち上げた巨大な武器が目に飛び込んできたからだ。2メートルを越すほどの巨大なハンマーに見える。
「アレです、大戦鎚。彼専用の特注品です。噂では、一撃で中型魔物クラスを圧し潰すそうです」
噂なんでしょ?で片付けられない威圧感が漂ってくる。あのアインザームが認めているのも相まって、噂の真実味が増してくる。
そうこうしてる内に、演習場に透明な壁に包まれた大きな空間が出現した。最初に挨拶した教官が創り出したモノのようだ。
「あれは?」
なんでも聞いて申し訳ないけど、頼れる相手がユイナしかいないので仕方がない。
「空間術士の上級魔法の『消魔壁』です。防御壁の一種で魔法を遮断する効果があります。魔法以外は通過しちゃいますけど…。あそこまで大きく広げられるなんて、流石は教官てコトですね」
ユイナが感心したように言う。まあ、訓練生より弱かったら指導なんて出来ないもんね。
なんて言葉を覆す出来事が、この後すぐに起こるなんて、思ってもみなかった。
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