第八章 怪しい依頼
第101話
昨夜はまぁ、特に何もありませんでした。ケータの「もう少し今までどおりでお願いします」という懇願を、私たちは笑顔で受け入れた。
私は少なからずホッとした。なんとなく皆んなもそうだと感じた。勿論いつかは…とは思うけど、私たちにもやっぱり心の準備が必要だからね。
~~~
それから数日後のある日、私たち3人はファナさんに呼び出された。
「いつも呼び出してすまないな、ケータ殿」
「いえ、お構いなく」
仕事が忙しいのか、机で何かの作業をしながらファナさんが出迎えてくれた。それからガサゴソと、引き出しから何かを取り出す気配がする。
「さっそくで悪いが…」
言いながらファナさんが、書状のような物を自分の机の上に「バサッ」と並べた。
「この間の演習で、キミたちは一体何を仕出かしたんだ?」
「え?」
私たちはポカンとした。え、どういう意味?何かやっちゃったかな?いや、心当たりがないことも無いのだけど…
私たちはお互い顔を見合わせて困惑した。
「ある程度は注目を集めるとは予想していたが、コレは予想外だよ」
ファナは「ククッ」と笑った。
「キミたちに会わせろと、他家からの書状が絶えない」
どういうコト?なんで私たちに?
「ボクらに会って、何かあるんですか?」
「おそらく引き抜き、ヘッドハンティングだな」
「引き抜き?そんなコトってあるの?」
私は驚いた。そんなIT企業みたいなこと、なんだかイメージが合わない。
「勿論あるさ、生命の危険に伴うことだからな。優秀な人材は手元に置いておきたいと思うのは普通だろうさ」
確かに普通だ。IT企業よりもっと切実だった。
「それにこんな底辺領地だ、俸給の優遇をチラつかせれば簡単に引き抜けると思われているのだろう」
「給料なんて貰ってませんけどね」
ケータが溜め息をついた。
「当然だろう?ケータ殿たちは衛兵ではないのだから」
ファナさんが悪戯っ子のような表情で笑った。そりゃそうだ、納得するしかない。
「どうだ、会ってみるか?」
「え、心配じゃないんですか?」
私は思わず声を張り上げた。そんな私を見て、ファナさんは余裕綽々で笑った。
「キミたちは私の人柄に惹かれてこの地に残ってくれているのだろう?私たちは雇用契約を超えた信頼関係で結ばれていると自負している」
それを自分で言っちゃう?私は思わず愛想笑いを浮かべた。だけど多分、ココ以外ではこんなに自由に暮らすことは出来ないと、不思議な確信がある。
つまり残念ながら、私たちの利害は一致しているのだ。
「それで、ドコと会えばいいんですか?」
サトコが溜め息混じりに声を出した。ん、どういう意味?会う必要なんてあるの?
「どうしてそう思う?」
「だって会う必要がないなら、この会話自体が意味ないもの」
サトコの言葉に、ファナさんは満足そうに笑った。
「そうだな、そのとおりだ。思ったよりもサトコ殿は聡明だな」
ファナさんが頷きながら思案に耽ける。
「き、急に何ですか?」
「いやなに、私の後はケータ殿とルーに任せようと考えていたが、ケータ殿とサトコ殿でも大丈夫そうだな」
「え?」
ケータとサトコが同時に驚いた。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ、ファナさん!ソレってどういう意味よ!」
私は前に飛び出てファナさんの机をバンと叩いた。
「ああ、心配するなハルカ殿。仕事が忙しいだけで私はまだ結婚を諦めていない。万一のときの話だ」
ファナさんが意味深に笑った。でもつまりはそーいうコトでしょーが!
「私だって勉強出来るんですよ!」
「分かってるよ、ハルカ殿。キミにも期待している」
ファナさんのにこやかな笑顔が、どうにも小馬鹿にされてる気がする。くそー、絶対見返してやる!
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