第100話

 私たちが自宅に帰ると、ルーが「晩ご飯作るね」と支度を始めた。サトコが「手伝う」と名乗り出るが「材料がなくて大したモノ作らないから大丈夫」と丁重に辞退していた。


 確かに疲れてもいたので、お言葉に甘えて私たち3人は食卓で雑談を交わしながら時間を潰していた。暫くして、ルーが大皿に山盛りの炒飯をヨイショと運んできた。ご飯を炊く暇はなかったからピラフかもしれない。


「有り合わせですみません」


 ルーが済まなそうに、全員の分を小皿に取り分けてくれた。有り合わせだなんて、とんでもない!スゴくいい匂いがする。一口食べて度肝を抜かれた。


「美味しい!スゴく美味しいよ、ルー!」


 私が感想を口にする前に、ケータが大喜びでルーを褒めた。うん、本当に美味しい。サッと作っただけに見えたのに、どんな魔法を使ったんだか…


 サトコも流石に唸るしかない感じ。こういうアドリブみたいな料理は苦手そうだもんね。


「同じように褒めてもらっても、昨日までとは何だか嬉しさが違いますね」


 ルーが頬を真っ赤に染めて「キャッ」と照れた。その瞬間、私とサトコが同時に「カラン」と食卓にスプーンを落とした。


「あらら、どうしたんですか?」


 ルーが布巾で食卓を拭きながら、スプーンを取り替えてくれた。


 やりやがった、このクソガキ…


 私たちは完全に出し抜かれた。ルーの言葉を、善意からのモノと判断してしまったのだ。失態以外の何物でもない。今日という記念すべき日を、完全にルーに持ってかれてしまった。


「さ、食べましょう」


 ルーも食卓につくと、自分でも食べ始めた。「うわー、思ったより上出来ですー!」とかケータにアピってやがる。


 私とサトコは「ホント美味しいよ」とルーを褒めることしか出来なかった。何故だか一口目より塩味が増した気がした。


   ~~~


 ルーが晩ご飯の後片付けをしてる間、私たちはルーが用意したお茶を飲んでいた。さっきの料理はホントに美味しかった。私も最近料理を習ってるから、この時間と手間をかけないで美味しいモノを作る技術に感服してしまう。


「ケータくん、提案なんだけど」


 私が物想いに更けていると、サトコがちょっと真剣な表情になった。


「前にケータくんが言ってた、二階を二部屋にする話、もう一度ファナさんに提案してみない?」


「え、何で?前は反対してたのに」


 ケータが不思議そうな顔をサトコに向けた。


「うん、あのね…」


 サトコが両手の指でモジモジしながら顔を伏せた。


「ほら、私たちって両想いじゃない。もしかしたらもあるかもしれないし…」


 言って真っ赤になった両頬を「キャハッ」と両手で押さえた。


 私とケータは、同時に盛大にお茶を吹いた。何とか顔を横に向けたことを褒めてほしい。しかし、待て待て、ちょっと待て!


「サ、サトコ…、って?」


 ケータも顔を真っ赤にして、どう見ても心当たりがあるハズなのに、それでも確認せずにはいられなかったようだ。ケータの問いに、サトコが身悶えするように身体をくねらせた。


「やだっ、言わせないでよ!」


 その仕草に、ケータは脳天から湯気を噴き出し昇天した。


 しかしサトコの奴、どんだけポジティブなんだ?この状況で両想いだなんて…


 いや、待てよ…


 ケータは確かに、私たち全員のことがだと言った。私も勿論ケータが好き。ならコレは、ある意味両想いとも言えるんじゃない?


「有りかも…」


 有り寄りの有りってヤツだ。私はボソッと呟いた。その言葉を聞いて、ケータがハッと我に返った。


「待て待て待てっっ」


 ケータが両手を突き出して私たちを制した。


「ルーもいるんだ。あまりこういう話は…」


「どうしてですか?私だって興味ありますよ」


 片付け終わったルーがタオルで手を拭きながら、不思議そうな顔でコチラに戻ってきた。


「初めてはケータお兄ちゃんに貰ってほしいです」


 ルーの強烈な一言に、ケータは崩れ落ちて食卓に突っ伏してしまった。

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