第102話
相変わらずファナは、ボクらを振り回すのが愉しいらしい。ホントいつかは勝てるようになるのだろうか…全くビジョンが見えてこない。
「まあ、引き抜きとかにワザワザ構ってやる必要もないが、一つ面白い書状が届いている」
ファナが一枚の書状をひょいと取り上げた。
「クマンの商家からなのだが、南の都市から自領へ戻る最中に竜襲撃の噂を聞き、キミたちに護衛を依頼してきたのだ」
「何か変なの?」
ハルカが首を傾げる。
「商談帰りの商家の者が何処でキミたちの存在を知ったのか、凄く興味があってな」
「あ…!」
「ルーの報告では、クマンの衛兵は襲撃の際に犠牲になっている。つまりキミたちの存在を報告出来た者はいない筈なのだ。これはクマンからの引き抜きのアプローチがないことでも裏付けが取れる」
ファナは机に両肘をつくと、両指を組んで口元に添えた。
「だったらこの依頼人は、何処からキミたちの情報を仕入れたのだろうな?その情報の出所次第では、キミたちの平穏な日常を脅かす存在になるかもしれないんだ」
ファナの言葉にボクらは息を飲んだ。ファナがこの依頼に目を付けた理由がやっと分かった。
「自分たちの日常は、自分たちで守れということですね」
「その方が、タダであの家に住んでることに引け目を感じなくていいだろう?」
ファナがニヤニヤと笑いながら放ったその言葉は、見事にボクたちの心臓に突き刺さった。
「わ、分かったわよ!やってやろーじゃないの!」
「キッチリ家賃分、働いてみせます!」
ハルカとサトコが、ダンと踏み出して豪語した。
あー、まただ。本当にボクらは、いつまでファナに踊らされるのだろーな…
~~~
ファナの話だと、クマンの商隊は翌日の昼頃にリース領の南を通るので、街道沿いの森の中の泉で休憩している時に合流してほしいと書状にあったらしい。
で、その翌日…
ボクたち4人はカリューに乗って、待ち合わせの泉を目指した。思ったよりも近くて大した時間はかからなかった。
森の中にそっと降りると、それぞれ戦闘の形態をとった。前回貰った外套までしっかり着込む。
何があるか分からないので、カリューは収納せずについて来て貰うことにした。ただし念のため、飛ばないようにだけは注意しておく。もちろん緊急時の判断はカリューに任せてある。
ボクたちが森の中の泉を目指して進んでいると、サトコがふと立ち止まった。
「正面にひとつ敵意を感じる。魔物かもしれない」
「分かった」
ボクたちは警戒して戦闘態勢に入る。サトコが「近付いてきてる」と注意を促す。
「あれ?消えた?」
急にサトコが驚いた声を出したとき、目の前の茂みから何かが飛び出した。
「わっ!」
「きゃっ」
そのままボクのところに飛び込んできて、支え切れずに縺れ合うように倒れこんだ。
「イタタ…」
背中を強く打って少し息苦しい。起き上がろうと目の前の何かに注意を向けたとき、左手に何か弾力のある柔らかいモノの感触があった。
え?何コレ、スゴく柔らかい。
思わずその感触を何度も確かめる。
「ち、ちょっとケータ、いつまで…」
「助けてください!」
ハルカの声が聞こえた瞬間、それを遮るように別の女性の声がした。同時にギュッと抱きついてくる。
「わっ!急に敵意がっ」
サトコが焦ったように声をあげた。それと同じくして、さっきの茂みから「ガササッ」と音を立て、3つの影がサトコに飛びかかってきた。
「きゃあ!」
サトコの悲鳴と同時にカリューが反応した。サトコを護るように飛び上がると、くるりと回りながら尻尾を横に薙いで3体まとめて吹き飛ばす。すかさずカリューは折り重なったその相手目掛けてブレスを噴いた。
正体は分からなかったが、3体の犬的な何かはその一撃で燃え尽きた。ハルカのスマホに小型魔核が回収されたことで、その正体が魔物だったのだと初めて分かった。
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