第103話
「危ないところをありがとうございました」
女性は立ち上がると何度もペコペコと頭を下げた。
背中まである黄緑色の長髪をハーフアップでまとめ上げ、大きな緑色の瞳と透き通るような白い肌。白いブラウスのボタンを引き千切らんとする程の存在感のある胸と、足首まである茶色のロングスカート姿の20歳前後の清楚な女性だった。
さっきのあの感触の正体は、あの「たわわ」なお胸だったのだろうか…?スゴいボリュームだった。正直見た感じ、サトコより随分大きい。
「私はベルと申します」
綺麗な緑色の瞳に真っ直ぐ見つめられ、軽い罪悪感で目を逸らしながら「ケータです」と名乗った。皆んなもボクに続けて順に名乗る。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「何があったんですか?」
ルーがベルに問いかけた。
「はい、それが…」
ベルの話によると、泉で休憩中に突然5体の魔物に襲われたらしい。商隊は盗賊などから身を守るための武装はしていたが、衛兵の護衛は雇っていなかったため、魔物の襲撃には対応出来なかったようだ。
しかしルーからしたら、ソレは変だと言う。基本的に6家による防衛ラインが機能している限り、そこより南に魔物が現れることは殆どないらしいのだ。
「一体何処から…」
ルーが焦った表情で考え込んでしまう。
「他の人たちは無事なんですか?」
サトコが不安そうにベルに尋ねた。
「分かりません。私は皆の助けもあって、先に逃がしてもらえたので…。でも程なくして魔物が私の後を追いかけきて、もしかしたらもう…」
そこまで言ってベルは、両手で顔を覆って「わぁああ」と泣き始めた。ハルカがベルに寄り添って背中をさすって慰める。ボクたち程度では、かける言葉は見つからなかった。
「とりあえず様子を見てくる。皆んなはここで待ってて」
見たくないモノを見るかもしれないけど、この役目はボクがやらなくてはならない。
「カリュー、悪いけど、ついて来てもらえるか?」
カリューが返事の代わりにボクの足元で頷いた。
「気をつけてね」
「分かってる。まだ魔物がいるかもしれないし、ハルカも気をつけて」
ハルカが心配そうにボクを見てくるが、ボクは精一杯強がってみせた。
森の中を少し進むと、木々の間から商隊の2台の馬車がすぐに見えたため、あまり迷うことなく真っ直ぐに着いた。
馬の姿は既になく、荷台だけが取り残されていた。そのまま森を抜けると、覚悟していたとおりと言うか、凄惨な光景が広がっていた。
「うっ……」
ボクだけで来て正解だった。こんな場面、皆んなには見せられない。というか、ボク自身もこれ以上近付くのは無理だ。
「ごめんカリュー、生存者がいるか様子を見てきてくれないか?」
「了解した」
カリューが翼をはためかせて舞い上がり、馬車周辺を旋回し始めた。とはいえ、ここから見える範囲でも絶望的だ。正直生存者がいるとは思えない。
カリューの様子を伺っていると、ベルと似たような服装の首のない死体に気付いてしまった。ボクは咄嗟に顔を逸らすと口元を押さえた。
その時カリューがボクの足元に舞い降りた。
「残念ながら、生存者はいないようだ」
「そうか…」
とてもじゃないが、クマンまで護衛をするような状況ではない。一度戻ってこれからどうするか、ファナに相談をしてみるか。
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