第104話
暫くするとケータが戻ってきた。もの凄く顔色が悪い。それで大体の状況が分かってしまった。
「駄目だった…のですね」
ベルさんも察したように声を漏らした。
「ごめん…護衛の依頼を受けてたのに、こんな事になってしまって…」
ケータが顔面蒼白で顔を伏せる。こんな事になるなんて思ってなかったけど、やっぱり責任は感じてしまう。
「まあ、あなた方がそうだったのですね!」
ベルさんが驚いた声を出した。
「いいえ、ケータ様のせいではありません」
言いながらベルさんはケータの頭を抱えると、自分の胸に抱き寄せた。ケータの顔が豊かな胸の谷間にスッポリと挟まれた。
「うへっ?」
ケータが驚いたような、なんとも言えない声を出した。あまりの事態に、私は口をパクパクとさせた。
「少なくとも私は、こうして助けていただいたのですから」
ベルさんは再び涙を流しながら、ケータを抱く腕に力が入る。ケータはベルさんの胸に挟まれ耳まで真っ赤になった。
ケータのヤツ、嬉しそうにデレデレしちゃって……て、アレ?紫色?
嘘?もしかして、ケータ窒息してる?
「べ、ベルさん、ストップ、ストップ!ケータが死んじゃう!」
私は駆け寄ってケータを引き剥がそうとするけど、思ったよりベルさんの力が強くて離れない。そのうちバタバタと暴れていたケータの両腕が、ダランと力なく垂れ下がった。
「わー、ケータ!サトコ、ルー、お願い手伝って」
私たちは3人で寄ってたかって、何とかケータの救出に成功した。
なんて恐ろしい…、死因が巨乳による窒息死だなんて全く笑えないよ。
~~~
あの後私たちは、ケータの提案で一度リース領に戻ることにした。ただ帰りはベルさんがいてるので、来たときのようにカリューでひとっ飛びとはいかない。おそらく4、5キロメートル、カリューならホンの数分だけど、歩けば1時間強はかかるかな。でもま、仕方がない。
歩き始めたところで、ベルさんが右足首を押さえてうずくまった。どうやら逃げてたときに捻ってたみたい。「我慢すれば歩けます」と彼女は主張するけど、1時間も歩いて悪化したら大変だ。
話の流れで、ケータがベルさんを背負うことになった。ちょっと、いやかなり嫌だったけど、これまたやっぱり仕方がない。
「ご迷惑ばかりおかけして、本当に申し訳ありません。私、重いですよね?」
ベルさんが「ギュッ」としがみ付きながら、ケータの耳元でシュンとした声を出す。
「そ、そんな、全然軽いですよ!ボクたち護衛なんだから気にしないでください」
ケータは真っ赤な顔で「アハハ」と笑った。明らかに背中に意識が集中している。私はジト目でケータを見ていた。気が付くと、サトコとルーも同じ顔をしていた。
「お優しいですね。ではお言葉に甘えて…これからも私を護ってくださいね、ケータ様」
ベルさんが「フフフ」と色っぽく笑った。ケータの脳天から湯気が噴き上がる。
「は、はい。ベルさんのことはちゃんと護りますから、任せてください」
なによ、デレデレしちゃって!
「ちょっとベルさん、ケータに身体預けすぎじゃないですか?ケータ歩きにくそう」
私はささやかな抵抗を試みた。やっぱり見てて楽しいモノではない。
「あ、すみません。その方が良いかと思いまして…ご迷惑でしたか?」
「いや全然!何も問題ないですよ」
ケータが緩みきった顔で答えた。私は駆け寄ると、ケータの右足を思い切り踏みつけた。別に示し合わせた訳じゃなかったけど、サトコとルーも私に続いて同じ右足を踏みつけた。
「い、痛ってーー!」
ケータがあまりの衝撃に、右足を振り上げ体勢を崩した。危うく落としそうになったベルさんの身体を私たちが慌てて支える。
ちょっと、やりすぎちゃったかな…
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