第45話 番外編 3

「情報、と言われましても…」


 ショウの発言にファナはポカンとした。


「どうかしましたか?」


 アリスが不思議そうな顔をする。


「いえ…、王都から討伐隊が出たということで、私も兵を派遣していましたが…」


 ファナは思案顔になる。


「大規模な戦闘の跡が残っていただけで、撃退したとばかり…、違うのですか?」


 ファナの疑問にアリスは首を横に振った。


「討伐隊は全滅させられました。さらに…」


 アリスが言葉に詰まった。


「俺の友人が3人、火竜の餌食になった」


 ショウの声に怒りがこもった。


「必ず探し出して、仇を討つ!」


「3人!?」


 ファナはハッとなった。


「何か知ってるのか?」


 ファナの表情の変化をショウは見逃さなかった。


「あ、いえ…」


 珍しくファナは慌てた。


「火竜と関係するかは分かりませんが、昨日、キレーナレイク方面の空に巨大な怪物が現れたという噂がありました」


 言ってファナは「しまった」と後悔した。焦って迂闊なことを口走ってしまった。


「昨日?」


 ショウがファナに問い詰める。


「わ、我らは帰還途中で背後の空は確認しておりませんでしたが、領民の話では巨大な怪物が現れ、一瞬で姿を消した、と」


 ファナは「コホン」と咳払いをひとつすると、淡々と説明を始めた。


「見間違いかもと皆が口々に言いますが、目撃者も多く、念のため偵察隊を出しましたが何も発見出来ませんでした」


「そうでしたか…」


 アリスが頷いた。


「お力になれず、申し訳ない」


 ファナは頭を下げた。


「いえ、お気になさらないでください。魔界に還った可能性も高いのですから」


「姫さまにそう言っていただけると、気持ちも安らげます」


 ファナは再び頭を下げた。ショウはそんなファナの正面に立ち腰を曲げ、ファナの顔の真横に自分の顔を持っていった。


「アリスは良い姫だ。アンタの知ってることがアリスの不利益になったとしたら、俺はアンタを赦さない」


 ショウが囁くように言った。


 ファナは顔を上げると、ショウに微笑みかけた。


「心当たりはありませんが、肝に命じておきます」


 ショウは無言で振り返るとアリスに声をかけた。


「アリス、一旦戻ろう」


「そうですね。無駄足になってしまって、ごめんなさい」


「気にするな。ファナ殿に会えたことは、俺にとっても有意義な時間だった」


「え?」


 アリスの顔が蒼くなった。


「ショ、ショウは…年上が好みなのですか?」


「何の話だ?」


 ふたりのやり取りを見せつけられ、ファナは堪らず「プフッ」と吹き出した。


姫騎士ソードプリンセス」のこんな一面が見られて、ファナにとっても有意義な時間であった。


   ~~~


「何かあるとは思っていたが、予想以上だったな」


 自分の書斎で、ファナはひとり呟いた。


 しかし、あの「ショウ」という少年…


 たまたま彼らの留守中に来るということは、つまりはなんだろう。あとは運命に従うのみ…


「愉しくなってきた」


 ファナは「ククッ」と悪戯っ子のように笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る