第四章 シシーオ領にて

第46話

 ボクたち4人はカリューの背に乗り、「シシーオ領」を目指していた。


 ルーの「風使い」の能力で風の抵抗を緩和してもらい、カリューに全力で運んでもらう。


 結果として、30分ほどで着いた。おそらく原寸大なら、もっと早くに着いたと思う。


 上空から見るシシーオ領は、確かに大きかった。石造りの街を背の高い防壁がグルリと囲み、もはや街というより「要塞」である。


 西洋を思わせる大きな城が領内の北側に位置し、南側には城下街が広がっていた。防壁には門が造られており、東西と南の三ヶ所にあった。


 ボクたちは「リース領」から来たという辻褄を合わせるために、西門から少し離れたところに降りた。


 西門では数組の通行者が検問を受けていたので、ボクたちもその最後尾に並ぶ。


「次」


 ボクらの番になり、男の衛兵に呼ばれた。


「ここへは何用で参られた?」


「リース家当主ファナさまの使いで来ました」


 ルーが紹介状の家紋を見せた。


「リース家の…?」


 男がそばの男に声をかけると、その男が門の横にある建物に向かって走っていった。衛兵の詰所なのだろう。しばらくすると、その男がボクたちの所に戻ってきた。


「隊長がお会いになるそうだ」


 ついて来るように指示をして男が歩き出したので、ボクらは後に続いた。


「お連れしました」


「ご苦労、お前は持ち場に戻れ」


 中から女性の声が聞こえてきた。


「は!」


 男はサッと敬礼をすると、走って戻った。入れ替わりに女性の衛兵が入り口に姿を現わす。


 癖のない金色の髪を背中まで伸ばした、若草色の瞳の女性だった。黒地に銀ボタンの詰め襟のような軍服を着ている。皆んなが同じ服を着ているから、これがここの制服なんだろう。


「私は隊長のカミラだ。どうぞお入りください」


 カミラはボクらを誘導して中に入ると、ソファのところに案内した。ルーにそこに座るように促すと、カミラも対面に座った。ボクらはルーの後ろに並んで立つことにした。


「書状を拝見してもよろしいか?」


「あ、はい」


 ルーはカミラにファナの紹介状を差し出した。


「確かに、リース家の家紋…」


 呟きながら、カミラは中を確認する。


「当家では扱いきれない高価な物とあるが、どんな物だろうか?」


 カミラがルーに視線を向ける。


「え?」


 ルーがボクの方に振り返り「そういえば何だっけ?」て顔を向けてきた。


 言われてみれば、ルーには詳しい説明はしていなかった。ボクがハルカに合図を送ると、ハルカが魔核を取り出した。


「そ、それは、大型魔核!」


 カミラが驚いて立ち上がった。ハルカの持つ魔核を凝視している。


「そんな物、一体どうやって…?」


「あ、えーと、キレーナレイクで…」


 ボクは後頭部をさすりながら曖昧な返事を返した。


「そんなことは分かっている。だから、どうやって倒したのだ?」


 う…。あまりボクらのことを大っぴらにしたくないんだよな。困ったぞ。


「それはもちろん、ファナさまと我が衛兵たちの努力に依るものです」


 ルーがボクの困った表情を察して、ボクの代わりに答えた。


「ご存知のとおり、あの魔物は追撃をして来ませんので、何度も試行錯誤を繰り返した結果の勝利に他なりません」


 ボクは唖然として、ルーの後ろ姿を見つめていた。ルーの機転の良さには、いつも感心させられる。


「な、なるほど、確かにそのとおりだ。取り乱してすまない」


 カミラは恥ずかしそうに「コホン」と咳払いをしながら、ソファに腰を下ろした。


「現在、我が領地は魔法道具の生産に力を入れている。これほど貴重な素材を持ち込んでいただき、大変感謝します」


 カミラはルーに書状を返しながら言った。


「領内で不便が無いよう、案内をひとりお付けしましょう」


 言いながらカミラは後方に振り返る。


「ユイナ」


「はい!」


 呼ばれて奥から衛兵がひとり現れた。


 淡いピンク色の髪を両おさげにした、紫色の瞳の少女だった。

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