第138話

 ボクらはカリューの背に乗り、空に舞い上がった。当たり前だが、今は10分の1サイズだ。しかしコレでは時間がかかり過ぎるかもしれない。


「カリュー、もっと上空まで上がってくれ!サイズを原寸大まで戻す」


「了解した」


 カリューはグングン上昇し雲の上まで突き抜けた。これなら下から見られる心配も少ないだろう。ボクはスマホを操作して、カリューを原寸大に戻した。


 その途端、まるで連動したかのようにボクら全員の姿も原寸大まで拡大された。


「うおっ!?」


 突然のことに心底驚いた。こんなことも出来たなんて、かなりビックリだ。上手く使えば、色々と便利になるかもしれない。


「見た?今のスゲー!こんなコトも出来たん……だな?」


 かなり興奮気味にハルカたちに話かけたが、彼女たちの反応が思ったよりも薄い。というか、視線が冷たい。


「あ、あれ…?驚かないのか?」


「ケータくん、この件に関しては深く追求するのはやめようよ」


 サトコがニッコリ微笑んだ。例の威圧感のある笑顔だ。突然何でだ?ボク何かしたか?


「ケータは今までどおりの戦い方で良いと思う」

「そうです、これから大きな戦いがあるのですから、余計なことは考えない方がいいです!」


「あ、ああ…」


 ハルカとルーにも凄まれて、訳も分からず頷いた。いまいち釈然としないが、ふたりの言い分も確かに分かる。今は余計なことは考えないでおこう。


 それにしても、原寸大のカリューの速度は流石だった。30分ほどでリース領の上空に差しかかる。この調子なら、1時間とかからずにシシーオ領まで行けそうだ。


   ~~~


 地平線の向こうに巨大なシシーオ領が見え始めた。それに合わせてボクらも戦闘準備を整えていく。ハルカに預けていた外套までちゃんと受け取り着用したころ、チャットルームにショウからのメッセージが入った。


『東側より魔物の大群、その数およそ1千』


「は?1千?」


 ボクらは我が目を疑った。


『味方の数は?』


『シシーオ領の衛兵200』


「何よ、この差…」


 ハルカが天を仰いで溜め息をついた。


「追い討ちをかけるようで申し訳ないが、此方にも魔物の軍勢が迫っているようだ」


 カリューが首をクイッとコチラに向けた。


「おいおい、マジかよ…」


 地上までの距離があり過ぎてゴマ粒にしか見えないが、確かに何かの大群がシシーオ領に迫っていた。


「だってコッチ西門だよ?」


 サトコが焦ったように声を張り上げた。


 魔物の別動隊が裏に回り込んでいたのだ。よくある戦法だが、兵力に余裕があるのなら有効な手段である。マズいかもしれない。


「ちょっとコレ、滅茶苦茶じゃない!」


 ハルカが吠えた。気持ちは分かる、正直想定外だ。


「いえ、考えようによってはチャンスです」


 ルーが口元に右手を添えながら呟いた。


「これがチャンス?」


「はい」


 ハルカの「何いってんの?」的な視線に、ルーは冷静に答える。


「これ程の大群、恐らく敵の総戦力です。ここを凌ぎ切ることが出来れば、一気に敵の本丸まで攻め上がれるかもしれません」


「そうは言ったって…」


「はい、もちろん簡単ではありません」


 ルーはハルカを真っ直ぐに見つめた。


「ですが…今の私たちなら、きっと出来ます」


 ハルカがハッとしてサトコを見た。サトコの肩には退屈そうに欠伸をしながら、シルフがちょこんと座っている。余裕と受け取っていいのだろうか?


「でも何で、急にこんな大群で攻めてきたんだ?」


「あ、それは多分…」


「ベルね」


 ボクの疑問にルーが反応したのを遮るように、サトコが呟いた。


「はい、最強の勇者ベルさんの離脱は向こうにとっても想定外だったと思います。だから焦って…」


「なるほど…ベルより強いと思われる相手を、数の力で潰そうて訳か」


 てことは後がないのは敵も同じ。ここを凌ぎ切ることが出来れば、本当にチャンスかもしれない。


「とにかくこの状況は無視出来ない。ここで二手に別れよう」


 この言葉の意図を正確に把握したハルカとサトコが、不服そうな顔をボクに向けてきた。しかし諦めたように、ふたり揃ってゆっくり頷く。それからルーの方に詰め寄った。


「ルー、ケータをお願いね!」

「ギンを預けるから、ビシバシ使って!」


「はい、任せてください。栞里さんの期待には、しっかりと応えてみせます!」


 そのひと言に、ハルカとサトコが「ビシッ」と固まった。ルーはボクの胸元に抱きつくと、上目遣いでニッコリ微笑んだ。

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