第66話
軍用門を出ると三階建ての学校の校舎みたいな建物が二棟あって、その奥に演習場が広がっていた。周囲をグルリと背の高いフェンスで覆われた広大な敷地だ。
私たちは施設の敷地に入ると、ユイナと別れた。向こうもシシーオ家の衛兵たちで集まって行動することになってるらしい。
二棟の間に仮設のテントが張ってあって、どうやらそこが受付みたい。手続きを行ったときファナの予想通り、案の定周囲にどよめきが起こった。ま、覚悟してたから、驚きはしなかったけど…
今回の演習は一泊二日が予定されており、二棟ある向かって右側のが男子寮で、左側が女子寮。そして女子寮の一階にコンビニのような雑貨屋が店を開いていた。
ケータとルーが、何か飲み物を買ってきてくれるというので、私とサトコは男子寮の前で待つことにした。コンビニ前は人集りで、ちょっと暑苦しい。こっちの方がケータに見つけてもらうのに都合が良かった。
「キミたち、ちょっといいかい?」
そのとき突然背後から男性に声をかけられた。ファナの冗談だと思ってたけど、この展開…正直イヤな予感しかしない。
無視だ無視!私は聞こえなかったフリをすることにした。サトコは一瞬私の顔を見てきたが、意図を察したようにそのまま前を向く。無意識なんだろうか、そのとき私の左腕に組みついてきた。
おおう!こいつホント柔らけーな!ケータの鼻の下が伸びるのも仕方ないのかもしれない。
私は今まで自分の胸が小さいだなんて思ったこともなかったのに、こう毎日毎日比べさせられると一般的な基準値を見失いそうになる。
そういう時は、ルーには悪いが、彼女のスタイルで気持ちを落ち着けることにしている。とはいえルーは、ただ年下なだけなんだよなぁ。あの年の頃にしてはあるような気もするし…
え…、ちょっと待って!もしかして私は、近い将来更なる地獄を味わうことになるかもしれないの?イヤイヤないない。ケータ愛読の文献によると、ツインテール属性はスレンダーな体型が売りのハズだ。
「聞こえなかったのかな?キミたちのことだよ」
男は正面に周りこむと、再び私たちに声をかけてきた。
ゆるーくパーマがかった金色の髪。少し長い前髪をかき上げながら切れ長の目を閉じると「フフン」と笑う。それからその目を開き、吸い込まれそうな黒い瞳で私たちを優しく見つめてきた。
うわー、いかにもな
あれ?銀色ボタンの黒の詰襟…、この制服、何処かで見たことある…?
あ、ユイナと一緒だっ!
「俺の名前はアインザーム。受付でキミたちのこと見てたよ。確か、ハルカにサトコだったかな」
薔薇が舞うような笑顔でキザったらしく笑う。
「キミたちのような美しくて才能のある人を探していたんだ。どうだい、そこの談話スペースで少し話さないかい?」
言いながらアインザームが男子寮の一階部分を指差した。どうやらオープンスペースになってるみたい。だとしても行く訳ないけどね。
「受付見てたんなら知ってますよね?ツレを待ってますので遠慮しておきます」
私はキッパリ断った。そんな私をサトコが尊敬の眼差しで見てくる。確かにサトコ、こういう相手は苦手そう…
「連れ?居てたかな?キミたちしか視界に入っていなかったな」
アインザームが不思議そうに首を傾げる。コンニャロ、いい性格してんなー。とことんタラシヤローだわ。無いなかでも一番無い。
「俺の視界に入らなかったのなら、どのみち大した奴ではないよ。俺と一緒に居る方がずっとキミたちのためになる!」
アインザームは爽やかな笑顔で、言ってはならないことを言ってしまった。私とサトコのこめかみにピシッと青筋がたつ。
こちとら顔面だけで相手を選ぶなら、とっくに春日翔で手を打ってんだよ!サトコだって、毎日あのヤローとケータを見比べて、それでもケータを選んだんだ。その点だけは評価してる。お邪魔虫には違いないが…
だから尚更、コイツの言葉は許せない!
そのとき私とサトコは急に腕を掴まれ、強い力で後ろに引かれた。
「オレのツレに何か用かよ?」
私たちを引っ張った男性が一歩前に出て、私とサトコを背中に隠す。この背中、安心する。
ケータが来てくれた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます