第65話
私たちはユイナの馬車に乗せてもらったまま、検問を通過した。シシーオ家の家紋のある馬車に乗っているというだけで、大した検査もなく、ほぼ素通り状態だった。シシーオ家の権威の強さがよく分かる。
演習の施設は、街を通り抜けて北側にある軍用門から出た先にあるらしくて、もう少しユイナの馬車に同行することになった。
「ところでさ、『凍結杖』てどんな能力なの?」
ユイナのフトコロを痛めつけた責任の一端が私たちにあるのなら、興味のあるフリくらいはしておかなければならない。
「そうですね…」
ユイナの話によると、ごく短時間だけど相手を凍結させることが出来るみたいだ。ただ、サトコ(ギン)がやったみたいに全身を凍らせるなんてホントは無理で、腕一本とか足一本とかが限度なんだとか。
どう考えても辻褄が合わないんだけど、カミラさんが強引に納得させたみたい。
賊は「眼鏡の女にヤラレタ!」と喚いていたらしいけど、半ば錯乱状態であったため真剣には取り扱われなかったそうだ。
その話が出たとこでサトコが顔を赤らめて、焦ったように俯いたのがちょっと面白かった。どうやら自分の仕出かしたことをしっかり覚えているようだ。
「ただ、私の魔法と凍結杖が合ってたみたいで、最近とても調子が良いんです」
ユイナが小さくガッツポーズをしてみせた。
「ユイナさんは、どんな魔法を使うんですか?」
ルーが興味を持ったらしく、ユイナに質問した。
「私はね『脚力強化』が使えるの。凍結の効果は短いけど、僅かな時間で間合いを詰められる私の魔法とは相性がいいみたい」
「ユイナも強化術士なんだ。私と一緒!」
この10日間、自分の「
「あれ…?ハルカさん、そうでした?」
「うん、そう。私、防護魔法」
「そうだったかなぁ?」
ユイナは首を傾げる。
「なんか収納魔法がどうとか…違ったかな?」
は?収納魔法?ユイナは何を言ってるんだ?
ん?あれ…待てよ。
あーっ、言った、言ったわ!純白のローブに着替えたときに確かに言った。うわっ、コレやばいかも?
「覚え違いじゃないですか?空間術士と言えば、ケータお兄ちゃんですよ」
ルーが話の矛先をケータに向けた。あまりに突然のことで、ケータは面食らって椅子からずり落ちそうになった。
「え?ケータさん、空間術士なんですか?」
ユイナが喰いついた。ルーが両手を合わせて何度もケータに頭を下げている。元はと言えば私のせいだからルーは何も悪くない。もちろんケータもソレは分かってると思うけど、ルーを責めないであげて。
「スゴいじゃないですかー!」
「そ、そうかな?あ、でも、収納魔法とかは無理だよ?浮遊魔法だけ」
「そ、それでも充分ですよ!シシーオ家の衛兵にも、そんなに何人も居ませんよ!」
「そ、そうなんだ…」
ケータは冷や汗をかきながら「アハハ」と笑った。完全に話題がすり替わった。ユイナ、あんたチョロすぎるよ。今回もそれで助かったけども…
「それで、サトコさんは?」
興奮冷めやらぬ中、ユイナはサトコに顔を向けた。
「わ…私、獣魔使い…」
サトコは膝の上のギンを撫でながらボソリと言った。
「え?」
ユイナはサトコに聞き返した。
「だから、獣魔使いっ!」
サトコは声を張り上げた。サトコの告白を受けてユイナは自分の耳を疑ったような顔になる。
「い、いえ、でも確かに…。思い返してみれば、そうとしか思えませんが…」
ひとりで呟く。
「ちょっと失礼します」
ユイナは立ち上がると窓から顔を外に出した。
「ウソでしょーーー!」
ユイナの叫びが馬車の外に木霊した。
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