第64話

 私たちが「オイーヌ」「ネッコ」複合領地に入ったのは、あれから10日後のことになる。


 私たちはカリューでひとっ飛びだが、他の領地からくる人たちはそうはいかない。集合にはどうしても時間がかかる。街道には複合領地に向かう馬車の姿が多数確認出来た。


 この領地は2家複合と聞いていたが、それでもシシーオ領には遠く及ばない。ま、リース領よりは大きいけどね。2家の領主が住むであろう大きな洋館が東西にあって、その間に大きな街が広がっている。南側にひとつだけ門があり、領地への出入りはその一ヶ所で集中管理しているみたいだった。


 私たちは街道から少し離れたところに降りると、ファナの忠告を守ってスキルを発動させる。


 私は「純白のローブ」を身にまとい、サトコは「ウィッチハート」を頭にかぶる。それからカリューを収納し、ギンを呼び出した。最後にスマホの「トートバッグ」から全員分の外套を取り出すと、皆んなで羽織って出来上がり。


 馬車の流れが途切れた隙にサッと街道に合流すると、複合領地に向かって歩き始めた。すると後方から大きな地響きをたてて、黒塗りの頑丈そうな馬車が4台近付いてきた。


 私たちは道の端に寄り、進路を馬車に譲った。1台2台3台と通過したあと、4台目の馬車が私たちのそばで急に停まった。


「アナタたち、旅の人?街までまだもう少しあるわ、一緒に乗って行きませんか?」


 馬車の窓から顔を覗かせて、淡いピンク色の髪を両おさげにした紫色の瞳の少女が声をかけてきた。


 あれ?見たことある…、あ!


「ユイナ!」


 ケータが驚いた声を出した。そりゃ驚くわ。こんなトコで会うなんて微塵も思わない。


「え…誰?」


 ユイナが怪訝な表情になった。


 私たち4人は顔を見合わせると、揃ってフードをずらした。ちなみにサトコは帽子をずらした。


「あっ!アナタたち!」


 ユイナは窓から上半身を乗り出して、危うく転げ落ちそうになった。


   ~~~


「アナタたち、なんであんなところを歩いていたの?」


 黒塗りの馬車に揺られながらユイナが口を開いた。


 この馬車にはユイナが一人で乗っていた。隊ごとに馬車が用意され、前を走る他隊の馬車にはもっと人数が乗ってるらしい。


「別の用件で馬車が必要でしたので、帰ってもらったのです」


 ルーがちょっと苦しい言い訳をした。いやいや、さすがにここまで来たら普通なら最後まで送ってくれるでしょ。ツッコまれても仕方ないぞ。


「そうなんだ、大変ですね」


 あ、信じた。てかユイナ、ちょっと抜けてるなー。そのおかけでいろいろ助かってるのも事実だけど…


「そういえば、あの後どうなった?」


 ケータがあの日の事件のことを質問した。


「そうですよ!あの後大変だったんですから!」


 ユイナが身を乗りだして声を張り上げた。


 ユイナの話だと、駆けつけた警備隊の応援に賊を引き渡した後、西門の隊舎に戻り、ことの一部始終をカミラさんに報告したらしい。


「もしかして、怒られた?」


 恐る恐るユイナの様子を伺う。


「いえ、カミラ隊長は『清廉潔白』が信条ですけど『潔癖症』ではないわ。他隊の手柄を横取りする訳でもないので、西門の地位向上のためにアナタたちの案に乗ってくれたのよ」


 ユイナの言葉を聞いて、ホッと一安心。


「だけど、捕らえた賊が辺境の叛逆者の重要なスキル持ちだと分かって、私とカミラ隊長が領主さまのもとに呼び出されて…」


 ユイナは興奮でみるみる顔が赤くなっていく。


「私は辻褄を合わせるために『火球杖』を下取りに出して『凍結杖』に買い直したのよ。カミラ隊長も少し援助してくれたけど、『凍結杖』は中型魔法道具だから手痛い出費よ!」


 うっ……


 私たちは、返す言葉が見つからなかった。そんな私たちの様子をみて、ユイナが「フフッ」と笑った。


「いいのよ。まだまだこれからだけど、西門隊を見る世間の評価も少し変わったし、アナタたちには素直に感謝してるのよ」


 そう言ってもらえると助かる。私たちは安堵の溜め息をついた。


「私のフトコロ以外はね」


 ユイナは最後に意地悪く笑った。

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