第63話

 一通りボクらの品定めが終わったところで、ファナが口を開いた。


「しかし君らは揃いも揃って、ことごとくハイスペックだな」


 ファナは呆れたように言う。


「受付で職業クラスの申告をしたときに、騒ぎになるのが目に見えるようだ。リース領にとって吉と出るか凶と出るか…」


「そうなの?」


 ハルカが不思議そうな表情になる。確かにそんな実感はない。特にボクなんて、魔法道具をインストールしただけだし。


「浮遊魔法や収納魔法といった、空間魔法に適性のある者なんて、そうはいない。空間術士というだけで、それなりに注目される筈だ」


 あの店の店員が浮遊魔法の魔法道具をあんなに熱く語っていたのは、そういう訳か…


「サトコ殿なんて特にだ。10年にひとり現れるかどうかという稀な才能なんだ。どういう連中が集まるかは知らんが、おそらくピカイチだろう」


「それを言ったら、ルーだって!」


 ボクは反論した。「風使い」なんてどう考えても話題になるに決まってる。


「何を言っている?ルーはただの『魔術士』だ」


 ファナは悪戯っぽく笑った。


「う…」


 な、なるほど…確かにそうだ。あくまで職業クラスの話だ。敢えてスキルの公表をする必要もない。


「なんだか私だけ、普通っぽい」


 ハルカが拗ねたように口を尖らせた。ソレを見て、ファナが「ハハ」と笑う。


「確かに強化術士という存在は、そんなに珍しいモノではない。しかし防護魔法は別だ。あらゆる場面で重宝される。誰だって死にたくはないからな。その適性を持つ者は大いに受け入れられる」


「そ、そっか」


 ハルカは嬉しそうに微笑んだ。自分だけ除け者にされたみたいで寂しかったのかもしれない。


「ハルカ殿とサトコ殿は見た目も綺麗だからな、どういう演習になるかは分からんが、おそらくモテモテだろう」


「え?」


 ボクは焦ったように声を出してしまった。ソレを聞きつけた3人の女性の瞳がキラリと光る。


「どうしたケータ殿、もしかして心配か?」


 ファナが完全に愉しんでるような顔をしている。しまった、またヤラレタ!


「ケータ、心配?」

「ケータくん、そうなの?」


 ふたりから発せられる眩しいくらいの瞳の輝きに、ボクは目が眩んだ。


「そ、そりゃ、少しは…」


 ホントはかなり心配だけど、強がって控えめに言った。すると両サイドからふたりに抱きしめられた。自分の顔面が一瞬で熱くなるのが分かった。


「大丈夫、ケータ以外なんてあり得ないから!」

「ケータくんに妬いてもらえてスゴく嬉しい!」


「わ、分かった、分かったから!」


 同居生活に慣れてきたとはいえ、人前ではまだまだやっぱり恥ずかしい!


   ~~~


「あ、そうそう、ケータ殿」


 うわっ、きた!ファナの「あ、そうそう」…。ボクの警戒信号がフルに稼働し始めた。


「な、なんでしょうか?」


 思わず身構える。ソレを見て、ファナが愉しそうに笑った。


「そんな大した話じゃないんだが…、最近また、竜の被害が出始めたんだ。王都からの討伐隊も出るらしい」


 王都から…?まさか、春日翔も加わるんじゃないだろうな。大丈夫だろうか。というか、竜の再来なんて充分大した話じゃないかっ!


 しかし、この世界に竜は一体何匹いるんだ?それとなくカリューに確認しておいた方がいいな。2匹同時に襲われるとか、恐ろしくて考えたくもない。


「どうした?何か気付いたことでもあるのか?」


「あ、いやー」


 この際、ファナでもいいか。ボクは素直に疑問を口にした。


「魔界に竜は、一体何匹いるんだろうなと思って」


「何故だ?」


「だってまた、竜が現れたんだろ?」


「だから、どうしてまた『火竜』が現れたと思わなかったんだ?」


 ファナが問い詰めるように、重い声を出した。


 し、しまったぁああ!また、やらかしたぁああ!


「まさか火竜も…ソコにいるのか?」


 ファナが、首から提げているサトコのスマホを睨みつける。ボクたち3人は、ブルブル震えながら抱き合った。


 暫くファナはこちらを睨んでいたが、急にフッと微笑んだ。


「冗談だ」


「え?」


「竜が現れたなんて情報は嘘なんだ。引き留めて悪かったな」


「え?え?」


 ええええーーーっ!


 完全にカマをかけられた。やっぱりファナは怖ろしい。

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