第62話
「そろそろサトコ殿もお願い出来るかな?」
ファナがサトコに声をかけた。さっきからずっとボクのシャツの裾を掴んで離していないサトコが、斜め後ろからボクの様子を伺った。
なんとなーくサトコの不安を察したので、少し考える。枠に限りがあるから仕方なかったとはいえ、ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。
「ギンにしとこっか」
「分かった」
サトコは頷くと、スマホからギンを呼び出した。
「なんだ、今のはっ!」
突然現れた小型犬サイズのギンに、ファナは度肝を抜かれたように驚愕した。
「収納魔法か…?いや、生き物が収納出来るなんて聞いたこともない…」
ファナはひとりでブツブツと呟いている。
「あのー…」
ファナが思考の旅から一向に戻ってこないので、ボクは右手を挙げた。
「どうした、ケータ殿?」
「例えば、召喚魔法…とかは無いんですかね?」
「召喚…魔法?」
ファナは首を傾げる。
「すまない、分からないな。もしかしてケータ殿は、勇者召喚の儀式のことを言ってるのか?」
あ、そうか。そう言われれば確かにそうだ。
なんだかメジャーな魔法な気がしてたけど、異界から
勇者のチート能力を持ってしても、時空の壁は超えられなかったのか。
…いや違う。ひとり大天才がいたな。「異界の門」を開いたという勇者が…
たまたま、初っ端で魔界を引いてしまったために悪魔のように語り継がれているが、彼がスキルを使うたびに異界と繋がっていたとしたら、それはもう神の所業だ。勇者の中でも群を抜いている、頂点たる存在だ。考えただけで怖ろしい。
つまり結論として、召喚魔法は普通の魔法なんかじゃないってことだな。
「いいです。忘れてください」
ボクはファナに頭を下げた。
「よくは分からないが、話をサトコ殿に戻そう」
ファナは一応納得の表情を見せた。
「サトコ殿は一応『獣魔使い』ということになる。それだって10年に一人の逸材だ」
言いながらファナはギンの近くにしゃがみ込んだ。
「触っても大丈夫か?」
ファナはサトコに確認をとった。
「あ、はい」
サトコが頷くと、ファナはギンの背中をサワサワと撫でる。冷静を装っているが、かなり興奮している気配がする。女性って、皆んなこうなのか?
「しかし私の知る限りでは、せいぜい鳥や小動物程度だったが、これほど立派な獣魔…」
そこまで言って、ファナはふと口を止めた。
「なんだか銀狼に似ているな。なんていう種類だい?」
「似ているも何も、オレ様がその『銀狼』だ!」
ギンが声を張り上げた。
「バカッ!」
サトコが咄嗟にしゃがみ込みギンの口を押さえた。それから「アハハ」と誤魔化すように笑う。
ファナはしばらく放心していたようだったが、唐突に無言のまま立ち上がると自分の席に戻り、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「ケータ殿、私は何から驚いたらいいのだろうか?」
ファナは机に両肘をつき、両手の指を組んで口の前に添えた。
「そ、そうですね、何からがいいですかね?」
ボクは「ハハハ」と愛想笑いをした。ファナは「はぁー」とあからさまに大きな溜め息をつくと、サトコに向かって忠告した。
「向こうでは『ギン』は出しっ放しにしておいた方がいい。それと、人前では絶対に声を出させるな」
「は、はい!」
少し強いファナの口調に、サトコは驚いたかのように何度も何度も頷いた。
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