第61話
「それでハルカ殿は何が得意なんだ?」
ファナが話を戻してハルカを促した。
「あ、うん」
ハルカはスマホを操作して、純白のローブに一瞬で早着替えする。その光景を見てファナは目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「え?」
ファナの焦ったような声にハルカが戸惑った。
「今のは人前ではやらない方がいい。魔術士レベルでは、とても出来ない芸当だ」
ファナは眉間を摘みながら、声を絞り出した。
「あ、実はシシーオで驚かれました」
「手遅れか…。よく騒ぎにならなかったな」
「たまたま別の事件が起こりまして…」
ハルカが「ナハハ」と笑った。
「君らは本当に運が良いな」
ファナは溜め息混じりに呟いた。ファナの話を聞いて、こうやって後から考えると、本当にギリギリの綱渡りをしてきたんだなと実感する。
「で、何が出来るんだ?」
「私は結界術が使えます」
「けっ……」
ファナが口を開いたまま、唖然とした。しかし首を振ってすぐに我に返る。
「防護魔法、だな?」
「いえ、結界…」
「ハルカ!」
ファナの言葉を訂正しようとするハルカに、ボクは制止をかけた。ハルカが不思議そうな顔をボクに向けてくる。ここはファナに倣った方がいい。
「ファナの言うとおり、防護魔法です」
ハルカの代わりにボクが応えた。
「そうだよな。しかし驚いたぞ。一瞬、伝説級の勇者しか使えない魔法の名前が聞こえた気がしたからな」
ファナの言葉を聞いて、ハルカが「ハッ」と口元を押さえた。勇者召喚なんてもう随分と過去の話の筈だが、それでも分かる人には分かってしまう。気をつけないといけない。
「それはそうとハルカ殿、どんなモノか一度使ってみせてくれないか?」
ファナは「コホン」と咳払いをしてから、ハルカに伺いをたてた。瞳が異様に輝いている。
あ、コレ、絶対興味本位だ…
ファナのこんな姿は珍しい。ボクは思わず吹き出しそうになった。
「え、ええ…」
ハルカは頷くと、自身の周りに結界を張った。白く輝く透明な結界が、ハルカを中心に球状に展開している。
「これが、伝説の…」
ファナは思わず口をついた言葉に自分で気付くと、自分の両頬を「バチン」と挟むように叩いた。
「なるほど、しかしコレは困ったな」
「なんで?」
ハルカが首を傾げる。
「防護魔法とは、自身の防御力を向上させる肉体強化系の魔法なのだ」
ファナは腕を組むと、左手をアゴに添えた。
「魔術士の属性魔法でも上級の使い手になれば、防御壁のような補助系の魔法が使えるようになるのだが…」
ファナのこの話を聞いて、ユイナがルーの使った癒しの息吹に驚いた理由が分かった。アレも上級の使い手しか使えないんだろう。
ファナはボクらに説明をしながら、ハルカの結界をウットリするような瞳で見惚れていた。
「コレは流石にオンリーワンすぎる!こんな綺麗な防御壁など魔術士風情では絶対に無理だ」
コレもう、ファナはハルカのことを「結界術士」として認識してるよな。正確には「聖女」だけど…
「そうだな…。例えば、もっと身体に密着するように範囲を調節することは出来ないだろうか?」
「え、どうだろ?出来るかな?」
ハルカは目を閉じて、何かを考える素ぶりを見せる。すると結界が徐々に収縮し、ハルカの身体のラインに沿うように密着した。
「ああ、スゴイな。これでハルカ殿は『強化術士』ということになった」
ファナは頷きながら、含みのある言い方をした。
「でもコレ、咄嗟には出来ないよ」
ハルカが困った顔をしながら言った。
「ある程度は練習して慣れてほしいところだが、真に身の危険があるときは安全を最優先にしてくれていい」
ファナは当然とばかりに付け加えた。
「ん、分かった」
ハルカは笑って頷いた。
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