第34話

「あれ?いつのまにか、スマホに通知がきてた」


 ハルカが自分のスマホを確認しながら、驚いた声を出した。


「また、アプリがダウンロード出来るみたい」


「へー、良いなぁ」


 さすがレアモノは違うと言うことか。なんだか、どんどんアプリが増える。


「あ、ケータ。もしかして羨ましい?」


 さっきハルカに驚いて、立ち上がったまま座り直すタイミングがなかったボクの横に、ハルカがスッとすり寄ってきた。


「大丈夫。は全部、だから」


 ハルカが上目遣いで微笑んでくる。ボクは堪らず後退りした。


「お、おま…。急にお兄ちゃんとか、どうしたんだよ!」


 ハルカは妹なんだから別におかしなことはないんだが、何故か「気になるあの娘が親の再婚で急に妹になった」かのようなラノベ的な気分になる。


 てか「気になる」てなんだ?妹だぞ、ハルカは!


 ボクは髪の毛をワシャワシャかき混ぜた。顔がひたすら熱い。


「ケータがイヤなら止めるけど…?」


 ハルカが口を尖らせて哀しそうに言う。


「い、イヤって訳じゃ…」


 何なんだボクは…、訳が分からない!


 今までのハルカはだった。なのに、兄と呼んでくるハルカからは妹の匂いが全くしない。なんだ、この矛盾は?本当に訳が分からないっ!


「ち、ちょっとハルカ!ケータくんが困ってるでしょ!」


 サトコが立ち上がって、ハルカの腕をグイッと引いた。


「でも私、妹だし…」


「う…」


 ハルカの返答にサトコも言葉に詰まる。そう、ハルカは別におかしなことはしていない。おかしいのはボクの方、それは分かるんだけど…


「ケータお兄ちゃん、今はそんなことよりハルカさんの魔法道具の話を聞こうよ」


 ルーも立ち上がり、ボクの左手を引いた。


「そ、そうだな。ハルカ、頼むよ」


 ルーの提案は渡りに船だった。これ以上この事について考えたら、ボクの頭がパンクしてしまう。


「ん、分かった」


 ハルカが可愛く微笑んだ。


   ~~~


 皆んなが注目する中、ハルカがアプリをダウンロードすると、スマホのホーム画面に「ウォレット」のアイコンが現れた。


「おお、財布か!」


 感激しているボクを横目に、ハルカがアイコンをタップする。すると画面に「所持金を登録しますか?」とインフォメーションが表示される。ハルカは迷わず「OK」をタップした。


「248,950リング」と表示が更新した。


 喜ぶのもつかの間、すぐにインフォメーションが表示される。


『付近のスマホとアプリを共有しますか?』


「え?」

「マジか?」


 ボクらは驚きを隠せない。ハルカはボクとサトコの顔を順に見た。ボクたちはゆっくり頷く。ハルカが「OK」をタップすると、ボクとサトコのスマホが「ピロリン」と鳴った。


「き、来た!」


 ボクのスマホにも「ウォレット」の表示が…。興味本位で直ぐさま開く。すると「自由に使用出来ますが、履歴は全てホストに通知されます」とインフォメーションが入る。まあ、そういうモノかもしれないな。


 しかしこれで便利になった。いちいち皆んなでお小遣いを分ける必要がなくなったのだから。ハルカのアプリのお陰で環境面が整っていく。


「でも、そうか!ルーには…」


「私は大丈夫ですよ」


 ボクの言葉を遮って、ルーが答えた。


「必要経費として、ファナさまから渡された分が有りますので」


「あ、そうなの?」


 いつの間に…。というか、ルーはホントに察しが良いな。家事も得意そうだし、なんというか「いい奥さんになりそうだな」とかルーを見ながら考える。


「え?今…」


 急にルーが頬を両手で押さえて、ボクを見上げてきた。頬が赤く染まっている。


「ちち、ちょっとケータ!どういう意味よ」


 ハルカがボクの顔を掴んで、強引に自分の方に向けた。


「なな、なんか今、ルーに向かって『いい奥さんになる』とかなんとか…」


 サトコがアワワと狼狽えている。


 え……?


「あ、あれ?ボク今、声に出てた?」


 マジか、やっちまった!顔が火照ってくるのが分かる。


「あの、期待に応えられるように頑張るね」


 ルーがボクの服の裾を掴んで、上目遣いで顔を真っ赤にしている。


 一方で、ハルカとサトコの鬼のような視線が突き刺さる。生きた心地がしない。


 3人に囲まれて逃げ道もない。


 一体どうしたらいいんだ、誰かボクを助けてくれーーー!

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