第33話
私はルーに言われたことを考えていた。
確かに今までの私は、自分を磨くことに尽力し、同性との駆け引きなんてしたことがない。
しかし既に懐に入られてしまった現状、今から駆け引きを磨くなんて間に合う訳がない。ルーがそんな無意味なことを言うとは思えない。
…て、待て待て。なんで私はルーをこんなに信用してるんだ?だけど私を蹴落とす罠ではないと、不思議と確信が持てる。
だったら、私の武器はなんだ?
私は「うーむ」と考えこんでしまう。
「ちょっとハルカ!動かないなら邪魔だから、そこどいてよ」
サトコが迷惑そうに話しかけてきた。
「今、大事なとこなんだから邪魔しないで!」
私はサトコを一喝した。
「え…?なんで私、怒られたの?」
「なんででしょうね」
サトコとルーがコソコソ喋っているが、今はそんなことに構っている暇はない。私は目を閉じて思考を続ける。
それなら私が、今まで負けなかったのは何故?
それは私が「妹」だったから。
周りの女子はケータの中に、勝手に「私」という基準を作り、「あのレベルを求められたら敵わない」と勝手に戦意喪失していたのだ。
それが私自慢の「妹結界」
ああ、そうか!
私は「妹」じゃなきゃダメなんだ!
私はコッチの世界に来て欲が出た。ここなら「妹」からひとりの「女性」になれると思ってしまった。
それが失敗だった。
私はどっちつかずな態度になり、どっちにも踏み出せなくなった。そのせいで私は、何も出来ずにサンドバッグと化していたのだ。
だけど違った。今ハッキリと分かった。
私は「妹」でよかったんだ!
しかも、血の繋がりがないことを私が宣伝する必要も全くない。その事実をケータが認識してるだけでよかったんだ。
一途に自分を慕ってくる、血の繋がりのない妹。
なんて甘美な響きだろうか。
これ以上の背徳的な甘い誘惑が、この世にあるだろうか。いや、無い!(ハルカ調べ)
私の唯一無二の武器は、「妹」という私自身だったんだ。そして切り札となるのが「義理の」だ。
サトコもルーも「そうは言っても妹でしょ?」て、たぶん思ってる。いや、絶対思ってる!
この誰も知らない「真実」が私を勝利に導くハズだ。
ククク!なんだか、あの頃を思い出してきた。「誰にも負けるハズがない」と豪語していたあの頃を。
ルーよ、アンタは目醒めさせてはいけなかったモノを目醒めさせてしまったみたいよ。敵に塩を送ったことを、タップリ後悔するがいい。
私はそこで目を開いた。
いつのまにか片付けも済んでおり、サトコとルーがケータの横に座っていた。
「ハルカはあそこで何をしてんだ?」
ケータが不思議そうに私を見ていた。
「んー、分かんない。それよりケータお兄ちゃん、ファナさまの用事は何だったの?」
「ああ、それは…」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんて、随分と図々しいわね、ルー」
私はケータの言葉を遮って、静かに、だけど力強く声を出した。
ケータは今さら何言ってんだ?て顔してる。
だけどルーとは、ここから始めなくちゃ始まらない気がする。
「急に、なんですか?」
ルーが私に挑発的な笑顔を向けた。
「ケータには正真正銘、私という最高の妹がいるの!あんまり馴れ馴れしくしないでよね」
「お、おい。急にどうしたんだよ、ハルカ?今さら何でそんなこと…」
ケータが私とルーの顔を交互に見ながら、オロオロしている。サトコも何が起きているのか、全く理解出来てないみたい。
「なによ、ケータ。そんなに呼ばれたいなら、私が呼んであげるわよ」
私は背後からケータに近付くと、顔をそっとケータの耳元に寄せた。
「ケータ…お兄ちゃん」
ケータは一気に顔を真っ赤にさせると、突然立ち上がった。
「な、おま…、ええ!?」
ケータの狼狽ぶりに、サトコとルーが厳しい視線を私に向けた。
私はふたりの視線を平然と受け止めた。
やっと、やっと私も同じ舞台に立てた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます